28 先輩って呼ぶなって
「以上でおしまい。ほかに何かある? 今週からほぼ毎週日曜、京都で。出席は強制じゃないけど、できるだけ、ね」
京都競馬場で集合、その後、反省ミーティング。
いずれも強制ではないし、遅刻も早上がりも自由。
緩いサークルかというと、そうではない。
毎週末日曜日、必ず競馬場に集合、終日拘束、これは現実的ではない。
実際的に、自由参加とならざるを得ない。
初代部長ココミクの方針がそのまま引き継がれている。
「じゃ、お疲れさまでした」
「いいですか?」
立ち上がったジンをブルータグが呼び止めた。
スズカとンラナーラとミカンが去るのを待って、ブルータグが言い出した。
「競馬と関係ないんですけど、あの、その、昨日、OBのココミクさん? とお会いになったんですよね? で、その、ペンタゴン? そこで人が死んだとか」
などと言い出した。
「あの、その死んだ人、ウチ、知り合いなんです」
「え」
ジンは驚いたようだが、聞く気になったようだ。
「それで、その、なぜ自殺したのか、って気になって。ジン先輩、何かご存じですか?」
「先輩って呼ぶなって。競馬じゃ、歳の差、関係ないんだから。まだ慣れないかもしれないけど、いい?」
ジンが言うように、これは以前決めたルールである。
先輩後輩の関係をサークルに持ち込むことを禁ず。
三年生と四年生のみのこんな小さな所帯で、いかなる形でも上下関係が生まれることは好ましくない。
しかも、競馬。誰が勝者となるか、その日の運次第。
フラットな関係でいるに越したことはない。
「はい。それで、なにかご存じのこと」
「ブルー、その言い方もNG。いい? でも、ボクは」
ジンと目が合った。
ちょうど一年前、これと同じようなことがあった。
京都競馬場のイベントで、サークルOBの一人が着ぐるみのまま階段を転げ落ちて死んだ。
それが事故なのか事件なのか、サークルとして解明しようということになったのだった。
ジンは、それを念頭に、どうしましょう、という目を向けてくる。
あの時も、取り組むかどうか、学生たちの自主的な判断に委ねた。
今回も同じだ。
前回はそれなりの「成果?」を得ることができたが、今回もそうなるとは限らない。しかも、ほとんどの部員にとって、対象は見ず知らずの人。
ココミクにしろ、死んだクワッチーサビラにしろ。
強制して「やらせる」ことではない。
ジンがブルータグの質問をどうさばくか、を待とう。
だが、考えすぎだったようだ。
「ごめん。ボクはなにも聞いてないよ。じゃ、日曜日、競馬場で会おうね」
ほら、ブルーも立った立った。
三限、遅刻するなよ。




