289 背中を流してくれようと
ヒマワリの花束をお館様はたいそう喜んでくださり、ケーキ職人ジンの首にはお館様自らミニサイズの守り刀を架けてくださった。
そして、余興団を次々と送り込んでくださった。
ヨウドウがアカペラで歌う隙間もなし。
大はしゃぎの学生たち。
やがて、ガリの目配せによって宴は幕を閉じ、岩風呂へ行列。
男風呂。
ヨウドウと二人。
「なんだ?」
背中を流してくれようとする。
「アイボリーを助けてくれた、その礼、ちゃんと言ってなかった。本当にありがとう」
「何を今さら。礼は何度も言ってもらった」
「いいや、何度でも言わせてくれ。本当に感謝してる」
「俺は何もしてないさ。礼はランや妖怪連中に」
「もちろんそうだ。でも、ランはなぜ動いてくれる? オマエがそう願ってるからだろ」
「ランもアイボリーやミカンを仲間だと思ってるからだろ」
「そう。でも、その仲間を束ねているのがオマエ」
そう言いながら、背中を擦ってくれる。
「オマエ、分かってるか? みんな、うちの娘も含めて、オマエを信頼してる、もしかして好き」
と、以前聞いたようなことを言いだす。
「彼女たち、皆、まだ結婚前だ」
「……」
「今の子たち。一人彼氏ができたらすぐ一途になる。いろんな人と付き合って、比較して、選別して、付き合う相手、ひいては結婚する相手を選べばいいのに」
「おい。何を言いたい」
「恋なんて、同時並行でいくつでもすればいいんだ。今の子、何を考えているのか、ひとつ恋をすれば、すぐヒロインになりたがる。あるいはヒーローになりたがる。心が柔軟じゃないんだ。型に嵌りたがるんだ」
「だから、何を」
「彼女らは聡明だ。同年代の男だけじゃなく、オマエにも興味がある、もしかすると恋してる。いいことじゃないか」
「おい。待てよ。その話」
「最後まで聞け。俺は、オマエが彼女らの男を見る目の一典型、比較対象? になればいいと思ってる。そのオマエに期待すること」
今、俺の最大の関心事は、彼女らの心の成長。
心の傷じゃない。
オマエ、例の事件の全容を明らかにしようとしてるだろ。
止めるなよ。
今止めたら、何も残らない。いいか。
残るのは虚しさというか、バカみたい、ってなるぞ。
今回の取り組みは非常に難しい。そのクロージングの仕方、オマエの腕の見せ所だ。
いい経験を積ませてやってくれよ。
たとえ、解明に至らずとも、なにか、心の財産になるような終わり方をしてくれ。
難しいことを言いだした。
いい経験ねえ、心の財産ねえ。
「プレッシャーかけるなよ」
「プレッシャーじゃない。義務だ。こんなことを始めたオマエのな」
なるほど。
それは言える。
「任せておけとはよう言わんが、頑張るよ」
としか言えなかった。
「さあ、風呂上がりの一杯、といくか」
「オマエひとりでな」
「アイボリーもガリさんもいるさ」
ガリさんには断られ、娘には諭されてしょんぼりしているヨウドウを部屋に押し込み、俺は俺の寝所へ。
以前も泊めてもらった少し広めの座敷。
障子戸を開け放つと縁越しに庭園が見える。
庭には明かりが灯され、木々が照らし出されて美しい。
火照った体を夜風で冷ます。
こんなことを始めた俺の義務、か。
それはそうだろうな。
いくらジンが始めたこと、といっても、それは通らない。
講師でありサークルの顧問である俺が認めたこと。
責任はすべて俺にある。
解明など、まだ深い霧の中。
しかし、ヨウドウが言うように、終わり方は考えておかねば。




