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27 昼休みの部活

 競馬サークルR&Hの部活。

 木曜の昼休み、十二時四十五分から、食事が終わって三々五々、学食の一番奥の席に集合、と決めてある。

 部活と言うのもおこがましいが、あえて人目につく場所でミーティング。


 学生課に申請すれば、各サークル専用の部屋が用意されるが、R&Hは申請していない。

 できるだけオープンに見せておくこと。

 これがサークル存続のために大切なこと、と考えているからである。


 何しろ競馬を楽しむサークル。世間の視線は必ずしも芳しくない。

 ギャンブル部と揶揄されることもしばしば。

 純粋に予想を楽しみ、競馬場の雰囲気を楽しみ、競馬の物語を研究することによって、学生の人としての成長の一助と成すのだと説明しても、その経験のない人には通じない。

 ましてや血統が、馬場コンディションが、ジョッキーとの相性が、生産牧場が、などと言おうものなら、競馬に嵌ったやつ、と白い目で見られるのがオチだ。

 掛け金のルールをはじめ、普段の行いにまで、部員たちに規律ある行動を求めていた。




「それじゃ、秋学期最初の部活始めます。この秋学期は現地で十七回の観戦を予定してます。実質十回ね。通例に従って出席者が少ない回、七回くらいは非開催とします。では、よろしくお願いします」


 部長ジンが秋の部活の始まりを告げた。

 少し甲高い声で、しかし声量は抑え気味に。


「今週は最初だからできるだけ出席してね。ローズステークス京都芝1800メートルGⅡ。秋華賞トライアル。念のため言っとくけど、京都競馬場だよ。阪神競馬場は閉鎖されたからね」


 大学での部活はジンをチューターに、レース傾向などが発表される。

 今週の参加者は、四年生ジン、アイボリー、三年生ブルータグとピンクタグの姉妹、スズカ、ンラナーラ、そして今日から入部のミカン、の七名。全員集合だ。


 これ以外にもサークルに籍を置く学生はいる。

 四年生メイメイ。このところ顔を出すことはほとんどない。いわば、実質的に休部中。

 そしてミャー・ラン。

 三年生の段階で留年し、そのまま休学中。



 学食での部活は、その週京都競馬場で開かれるメインレースの研究が主だ。

 レース傾向に加えて、主な出走馬の経歴など。

 とはいえ、二十分ばかりの時間で、できることはそれほど多くない。


 ここ数年、競馬は大きく変わった。

 2020年ごろまでの有名馬、人気馬、ゴールドシップやキタサンブラックらが活躍した時代に比べ、馬たちの愛され度がどんどん低下した。

 これは、各馬の生涯出走回数が少なくなったことが主原因である。馬を大事に、という流れが逆に競馬人気の衰退を招いたともいえる。

 つまり、有名馬が毎年毎年、どんどん入れ替わり、愛着を持てなくなったから、というのが一般的な考察だ。


 結果として、レジャーとしての競馬は衰退した。

 JRAも手をこまねいていたわけではない。

 引退馬が余生を穏やかに暮らす施設を全国に整え、見学を自由化したり、競走馬の生産抑制を図ったり、そして若者を呼び込む施策を打ち出したり。


 しかし、若者を厚遇するばかりに往年のファンがないがしろにされたと感じたことで、いわば常連客をごっそり失ったりした。

 若者の熱はすぐに醒めるもの。入れ替わりはあるものの、所詮はギャンブル。競馬人口は減少の一途をたどった。


 JRAの関西の競馬場はここ淀だけになったし、G1レースの日でも、抽選に当たらなければ席がないということもない。

 令和の初めに京都競馬場は建て替えとなったが、それほどの観客を集めることもなくなった今、減築のためにまたもや改築され、それを機に、主要な部分は平成の時代の形態に戻されている。


 競馬サークルR&Hは、京都で競馬が行われることを前提としている。

 毎日曜日というわけではないが、京都競馬場での現地観戦で、自分の予想を楽しむのである。



「今日から、ミリッサ先生もお昼の部活に来てくれます。ブルー達、先生、知ってるよね」


 三年生全員が頷いた。


 春学期は自分の担当授業はない。

 大学での部活には出席せず、競馬場でのみ、学生らと接する。

 それもあって、部員らに学生としての規律を守るよう、厳しく指導しているのだった。

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