285 心のコントロールを難しくしていた
次は、コールミー。
こちらも同じような顔つきだった。
きっかけとする話はこれしかない。
シュウのこと。
「コールミーさん。シュウって知ってますよね。彼女、僕の教え子です」
少しは驚く話題かと思っていたが、コールミーはあっさりした顔で、
「ええ、彼女から聞いています」
と応えた。
それなら話は早い。
「どんな関係なんです?」
元警備員は目を伏せた。
心の内を話すだろうか。
……。
……。
この男にとって、話す義務はないし、話したくはないだろう。
しかし、シュウからあの話を聞いた以上、聞いておかねばならない。
講師の身、自分にその資格があるや否やに関わらず、シュウの今後の身の安全に、そして心の安寧をもたらしてあげるためにも、やはり真実は知っておきたい。
「話してください」
「これを先生にお話しするのは気が進まないのですが、私の気持ち、彼女にお伝えくださるでしょうか」
「それは、お聞きしてから」
「ですね。……、私の恥、お話しできるのは、確かに先生だけ……」
長い間、コールミーは逡巡していたが、やがて、出会いから今に至るまで、時間をかけ、つっかえつっかえしながら話し出した。
記憶をなぞるように、懐かしむように。
苦しさを滲ませながら。
いつしか、競馬場で会えることを心待ちにするようになったこと。
初めて、競馬場外で会おうと誘った時のこと。
大阪市内での初デート……。
「今、喪失感でいっぱいです。……かれこれ、二年になりますか。出会ってから」
彼女は私のような男に夢をくれました。
好かれている。
そして自分は年甲斐もなく恋をしている。
そんな夢を。
ばかげている、とはいつも思っていました。
彼女が、こんな年の離れた七十男に恋心など、あるはずがない。
でも、弄ばれている、とは全く思いませんでした。
それは、今も、そうです。
彼女は単に、なんといいますか、私と話して楽しかったんだと思います。
いえ、そう思いたいです。
彼女を楽しませる、これが私の思いでした。
でも……。
いつしか、彼女に、……私の感情を……。
持っていかれている、と思うようになりました。
恋……、なのかもしれません。
彼女のことを思うと、胸が、なんといいますか、ざわつくのです。
毎日が、一変しました。
何をしていても、今、彼女と一緒なら、どんなに楽しいだろう、と思ってしまうのです。
食事はもちろん、買い物をしていても、散歩していても、通勤でさえ。
私は、結婚しないまま、この歳になりました。
独り身。
そんな自由さが、心のコントロールを難しくしていたのだと思います。
彼女がかわいくてかわいくて……。




