279 スタンディングオペレーションの後
「ランさんが気を利かして、退席を促してくれてなかったら、なかなか中座はできませんでした」
「もうちょっと早くてもよかったけどね」
「学生たちは?」
「あの子たちは、いい加減のところで帰らせてもらいました」
「すみません、お手数かけて。ありがとうございます」
「でも、ジンさんがね。シュウさんに会いに行ったんですけど、なかなか帰って来なくて焦りました」
「時間の流れ、違うからね。積もる話もあっただろうし」
朝の会話が弾む。
昨夜のこと。
初経験のことばかり。
「それにしてもミリッサ先生の挨拶。よかったなあ」
「お館様も大満足されてましたね」
「先生、いつも思うけど、心臓、強いね」
「いやいやいや、足はがくがく。声は震えないようにするのが精いっぱい」
「それでも、やり切る。そこがすごい」
「メイメイ。オマエもハルニナもすごいと思ってるぞ」
「ううん」
と、メイメイはガリをちらりと見た。
しまった。
この話はNGだ。
話題を変えよう。
「会の最後の方、お館様はどんなことをおっしゃった? 俺が知ってなきゃいけないこと、あった?」
「いつ頃まで、覚えてます?」
ん……。
「空に大曼荼羅が描かれて、キラッキラの星が大量に降り積もっただろ。そのあたりまでかな。いや、妖怪音頭の踊り子連が場内を練り歩いて、結局、総員で踊り狂って……。八万人大盆踊り大会。あれ、どっちが先かな」
「それ、宴の中間ちょっと後ぐらいかな」
「そうだ。オルカショーもあったな。オルカやオットセイや魚が大量に空中を泳ぎ回った」
「へえ。それ、かなり最後の方」
「そうか。それでお館様は? なんと?」
「もう一度、行くことになったよ。それが一番重要かな」
「そうね。スタンディング妖怪ウェーブの後」
会場を出るとき、妖怪たちが大喝采で別れを惜しんでくれたのだという。
お館様直々に見送りに来てくれたときのこと。
「お館様はうれしさ半分、すまなさ半分のお顔をしてらした」
「すまなさ?」
「はい。ミリッサ殿をお引き留めしすぎたって」
「でも、それはコントロールができなかったこっちが悪いのに。申し訳ないよ」
「フフ。で、ですね。再度、お招きしたいって」
「また?」
「今度は、学生や私や、一緒に楽しんでいただく宴を催すって。関係者も皆さん、お声がけの上、何人でも、お越しくださいってことになりました」
「えっと」
「はい。先生、喜んで、と応えられましたよ」
「そうか……。それが昨夜の最大の失敗かも」
「どうして失敗なんです?」
「あ、いや、さすがに厚かましいかなって」
「そうですか? 人間の代表、じゃないのに、ってことですか?」
「そう。さすがにな、それ、嘘すぎるだろ」
「いいと思いますよ。そんなの嘘でも何でもない」
「でも、ですねえ」
「俺が代表だって言ったら、その人が代表にふさわしいってことになりません? メイメイさんはどう思う?」
「そうだと思います。お館様も知っておられます。先生が天皇でないことくらい。総理大臣でもなければ大富豪でもないことも」
「そう。それでもお館様は先生を代表として心から扱ってくださる。そういうことです。ちなみに、私も先生が人類の代表、として最もふさわしいと思ってますよ」
「人類とな! はあ……。いくら何でも言いすぎですよ……」




