26 先生って冷たい
でも、とブルータグは首をかしげる。
「経営がうまくいってなかったことは事実やと思います。せやけど、それで自殺までします?」
そういうことは往々にしてあるのだろう。
しかし、ブルータグは納得できないのか、食べかけの冷麺を箸でかき回している。
「それ、行儀悪い」
と、妹にたしなめられているが、結局、箸を置いてしまった。
「ウチには信じられへん。店長のこと、なんも知らんけど、一昨日まで普通に営業しててんで。昨日は、しばらくお休みって言ってたけど」
「なんか、おかしい?」
「おかしすぎるやろ」
どうおかしいのかわからないが、バイトとして一緒に過ごしてきたからこそ感じることもあるのだろう。
二人によれば、いくら経営が行き詰っていたとしても、自殺するほど心の弱い人じゃない、ということのようだ。
常連さんもいてたし、とも言う。
「あれかな。恋人に振られたとか」
「恋人、そんなんいたんかな。聞いたことないけど」
「お姉ちゃんが知らんだけやったり」
「あんた、知ってんのか?」
「たぶん、いてないと思う。知らんけど」
妹のピンクタグは、あまり関心はないようで、姉を茶化している。
「お姉ちゃん、店長の顔の怪我、なんか聞いた?」
「聞いてへん」
「なかなか治らないよね。交通事故? 傷だけじゃなく骨とかにも」
「せやろか」
「夏はお客さん、少ないし。インバウンドも減って来たし」
「インバウンドなんか、元からないやろ」
「経営努力はしてたと思うけどなあ」
「それにしてもや。なんや、パワースポット? で、首つり自殺? そこがわからへん」
「ほんとやねえ。願掛け?」
「一カ月ほど前、長期にお休みしてたやろ。それ?」
「理由、聞いてないね」
「はあー、わからへん」
昨夜のことを話そうかと迷ったが、話すことにした。
黙っていても、ジンが話すかもしれない。
案の定、ブルータグが大きく反応した。
「えええっ! センセ、その現場に!」
「声、大きすぎ」
「君らに聞くまで、あの店長とは気づかなかった。顔つき、変わってたし」
と、忘れていたことをごまかしたが、早速、ピンクタグにやんわり呆れられた。
「先生って冷たい」
「んなことは、どうでもええねん! それより、どう? あ、どう、というか、なんで、というか、自殺の原因とか、は?」
聞いていない。
聞いても、無関係の自分に警察が教えてくれることはない。
「な、センセ。聞いてみて。知りたい」
そう、言われても。
警察に知り合いがいないわけではない。
しかし。
「な、センセ。ウチ、あの人、好きやってん。あ、恋愛感情って意味とはちがうで」
急に、ブルータグが涙声になった。
「ウチらな、本当は必要なかったと思うねん。バイト、雇う意味ないやん。客、ほとんど来えへんのに。でも、あの人、律儀やん。ウチらをクビにせんと、給料払い続けて」
ピンクタグもこれにはうんうんと頷いている。
「せやから……。センセ、なんで、っていうこと、聞いてみて。警察にでもなんにでも」
とても、承知したとは言えない頼みだったが、ブルータグの涙を見た以上、
「ま、あてにするなよ」
と、応えるしかなかった。




