275 骨が折れるだけでは済まない
「お館様より高い位置から、ご無礼申し上げる!」
よし。
この調子で、一気に話し終わろう。
「この度の魔獣退治の件、人間界を代表」
代表?
ま、この際、そういうことにしておこう。
「して、御礼申し上げる!」
我ら人間は、こうして、お館様をはじめとする皆様のおかげをもって、平穏に暮らしてきた。
しかし、わずか千年ではあれど、安穏すぎる暮らしが、貴殿らの存在、貴殿らとの関係、貴殿らへの恩、これらを忘れてしまうことになったことは、恥ずかしながら事実。
その意味で、少々不謹慎な言葉をお許し願えば、今回の魔獣騒動、これは一つのよいきっかけになったとも申せます。
以前、お館様はこのようにおっしゃった。
気取られず隠れ住むのは、もうそろそろ終いにしよう。
徐々に、徐々に、な、と。
妖と人間、そろそろ関係性を再構築しようではないか、という意味と私は受け取った。
今回の騒動、これはその第一歩。
私は、一介の大学講師。
貴殿らのような強力もなければ、妖力もない。
お館様のような素晴らしいリーダーに仕えているわけでさえない。
女の子たちに面倒な作業を言いつけているだけの、ただの男。
しかし、貴殿らと人間界の橋渡し、私にできることがあるとすれば、微力すぎるとはいえ、精一杯努力させていただく。
その覚悟、今回の一件で固まりました。
最後になりますが、もう一言。
お館様、皆さま、本当にありがとうございました!
ラン!
ありがとう!
俺が言うのもなんだけど、よくやった!
ありがたや。
轟音のような雄たけびと拍手、武器や楽器を打ち鳴らす音、音、音。
これでどうだ?
いいか?
下を見た。
獰猛猫の表情はわからない。
泣いているのか喜んでいるのか。はたまた呆れているのか。
猫が両手を目元に持っていき、横に何度も動かした。
うれし泣き、ってサインだな。
ふう!
よかった!
じゃ、そろそろ降ろしてくれ。
間違っても、ここからポトンと落とすなよ。
俺は人間。
骨が折れるだけでは済まないからな。




