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25 こいつ、食べもんのことばっかりで

 昼休み。

 袖にチョークの粉を大量に振りかけながら黒板を消し、教室の後片付けをして学生食堂に向かった。

 秋学期が始まったばかりとあって、大混雑。

 魚フライ定食のプレートを手に入れたものの、職員講師用テーブルは満席。


 こっち、こっち!

 と手を振ってくれる学生。

 ブルータグとピンクタグだ。

 隣が空いてるよ、と。

 二年生の時から、授業を受けてくれているから、なじみの二人。

 一緒に昼食を摂るのも初めてではない。


 ブルータグが姉、ピンクタグが妹、ということになっている。

 双子とはいうものの、容姿は全く違う。

 姉のブルータグは小柄で細っこいが、ピンクタグは大柄。

 性格もかなり違う。

 大阪漫才的に言えば、ブルータグがツッコミで、ピンクタグがボケ、という好対照。

 いずれも心根の優しい娘。


 ブルータグの濃いが澄んだブルーの瞳。短いボブカットをちょんまげのように束ねている。

 ピンクタグは深みのあるピンクの瞳。キャラメル色のセミロングの髪をくびれカールにしている。

 好対照の双子姉妹。

 彼女たちがサークルに入ってくれて、ぐんと賑やかになり、ジンも何かにつけて二人に目をかけている。

 



 ブルータグのハスキーだが大きな声。


「あんなあ、センセ、覚えてる? 前に、ウチらがバイトしてるお店に来てくれたこと、あるやんか」

「ああ。福島のたこ焼き居酒屋」

「そうそうそう。マスター、死んでしもたんですよ」


 えっ。


 急速に記憶が動き出した。


 あ。


 昨夜の首つり自殺。

 あれは、あの店の。


「えっと」

 思い出せ。


「そうそう。クワッチーサビラさんだ。その人のこと?」

「うん。自殺したみたい」


 なんと。

 あの店長だったのか。



 この二人に誘われてから、一人で何度か利用したこともある。

 居酒屋といっても、食堂メニューもあって、夕食としても利用できるからだった。


「そうなのか……」

 と言うほかない。

「お店、潰れてしまうんかな」



 店長一人で切り盛りしている小さな店。

 オーナーであり、調理人であり、なんでも一人でしなくてはならない、と聞いていた。

 バイトが一人。ブルータグとピンクタグが日々入れ替わり。だったはず。

 そういえば、クワッチーサビラとは沖縄言葉で、いただきます、そんな話を聞いたこともあった。


「流行ってなかったもんなあ。せやから、かな」


 自殺の原因を想像し始めたブルータグ。

 確かに、味は家庭的でお値段も手ごろだが、雑居ビルの地下一階、他の店がすべて撤退した陰気な通路の奥、トイレ横の一軒。

 賑わっているときに出くわしたことがない。



 二人が話している。

「でも、流行ってなかったからって、自殺するやろか」

「いい人だったんだけどな」

「家族、いたんかな」

「ううん。天涯孤独。そう言ってた。付き合いのない親戚だけだって」

「そうかあ……」

「賄いのたこ焼き、おいしかったなあ」

「なに、あんた、そこ?」

「沖縄出身の僕が大阪でたこ焼き作って、って笑ってた」

「そこかい!」

「ソースじゃなくて、出汁のたこ焼き、好きだったのに」

「ちがうやろ!」


 ブルータグががっくりと肩を落とし、首を垂れた。

「すみません。センセ。こいつ、食べもんのことばっかりで」

「食事時だからな」

「はあ、すみません」

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