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23 思春期の恋みたいなものまで持ち出されて

「何のお役にも立てなかったね」

「いいえ。先生に居ていただいて、心強かったです」


 駅までの道、遅くまでやっているカフェに入った。

 喉を潤したいし、少し休憩もしたい。ジンを労う意味でも。

 ココミクも現場は父に任せて、見送りがてら付き合ってくれていた。



「あ」


 ヨウドウとアイボリーがいた。

 こいつめ。こんなところに。


 だが、ヨウドウはこんな時に上手い。

 よう、と手を挙げて、手招きする。


「おまえなあ」

「久しぶりに娘との時間」


 さいでっか。

 後は、想像しろというわけだ。


 自殺者が出たにも関わらず、ココミクは笑っている。

「今日は本当にありがとうございました。ペンタゴンの方向性も示していただき、母とも会っていただいて」

 と、ヨウドウにチクッと嫌味、かもしれない。

「いやいや、俺は何も」


 あれからどうだったかとはヨウドウは聞いてこない。

 むしろ、ストレートに言う。

「お母さん、なんか、具合、悪そうだったけど」

 デリカシーってものがない。

 アイボリーの心配そうな顔。


 ココミクもその話題は避けたかったに違いない。

 あっさり、いつもあんな感じです、とだけ言って、話題は自殺事件に。




 一息ついて、ココミクが念を押すように言い出した。


「あの、厚かましいんですけど、近いうちにもう一度、来ていただけませんでしょうか」


 今日は、尻切れトンボになっちゃったので。

 もう本当に何とかしなくてはいけない段階にきてまして。


 どうしても、相談したいのだという。


「相談できる人、ほかにいなくて。母も、そうしろ、って言ってくれますし」


 また、母、か。

 エヌケイビーはいつまでたっても出てこない。



 正直、気は進まない。


 ココミクやエヌケイビーに会うのはうれしいし、楽しみでもある。

 しかし、ペンタゴンをどうするか。そんな相談は。


 パワースポットなど興味はないし、どんな見識も持ち合わせていない。

 上町台地の歴史に詳しいわけでもないし、そもそも神仏を崇めたりする気持ちがない。

 それに、元はと言えば、ヨウドウに相談するつもりだったのでは?



 黙っていると、ヨウドウに肘で小突かれた。

「ミリッサ、協力してやれ」


 何を言う。

 もともとはオマエだろうが。

 ココミクに誘われたのは。


 が、友は畳みかけてくる。

「オマエが適任だ」

「どう適任なんだ?」


 ココミクの真剣な顔の前で迂闊なことは言えない。


「ん? わからんのか?」

「いや、じゃ、ま、一緒に」

「ダメダメ。二人の都合の合う日に、ってなって、いつのことになるかわからん。それじゃ、ココミクが困るだろ」


 おいおい。

 そもそもココミクの期待の矢はお前に向いてたんだぞ。


「かわいい教え子の頼み、しっかり聞いてやれよ。俺はココミクの人となりを知らん。教師じゃないからな。たいして役に立つとは思えん。それに」


 うーむ。

 そうだが……。

 その通りなんだが……。


「それにだ。ヤタブーはな。ココミクの前で言うのもどうかと思うが、高校時代、オマエのことを、その、あれだ」

「は?」

「鈍感なやつ。ま、そういうこと」

「はぁ?」

「だから、頼むぞ。ココミクの相談に乗ってやれ。いいな」


 うまく逃げられてしまった。

 ありもしない思春期の恋みたいなものまで持ち出されて。

 くそ。

 

 ココミクが、チラリと不安そうな顔を見せた。

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