表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/253

22 記憶が解けかけて

「えっと、何て呼べばいい?」


 ミリッサか、スマートな名だね。

 僕は、エヌケイビーと呼んでくれ。



 刑事らは二の壷に出たり入ったりしている。

 大量に写真を撮り、何やら作業もしているが、エヌケイビーはお構いなしの大声になって、完全に同窓会モード。

 部外者であるこちらが気を使う。


「そうかあ、ミリッサ君が娘を気にかけてくれてたんなら、親としては、感謝しなくちゃな」


 茶色に染めた髪を七三に分け、左耳には銀のピアス。

 高校時代はかわいい感じの男の子で、女子に人気があった。腹が出かかっていること以外、ほとんど変わっていない。

 しかし、ヤタブーに感じたのと同じように違和感もある。

 何しろ三十年ぶりだ。

 記憶の扉が次々開いて来れば、違和感も消えていくのだろう。



「で、もちろん、うちのやつ、ヤタブーにも会ってくれたんだろ」

「ああ」

「そりゃよかった!」

「うん。食事、よばれながら。でも、この騒ぎで」

「そうかー。さぞ残念がっただろう」

「また、日を改めて来てくれって」

「うん、ぜひ、ぜひ、そうしてやってくれ。ぜひ!」


 エヌケイビーは、前のめり、と思うほど、今日会えたことを喜んでくれる。

 家族が仲がいいのか悪いのかわからないが、ここはこう言っておくところ。

「また、来るよ。その時は君も一緒に」


 首吊りのあった現場での立ち話である。

 家庭事情やヤタブーの体の具合など、聞ける場面ではない。



「ところで、君、今、何してる?」


 当たり障りのない話題。

 このペンタゴンの経営だけをしているわけではあるまい。


「僕か。ひと昔的な言葉でいえば、AI関係の会社をやってる。AIソリューションって、大げさな会社名だけど、従業員ゼロ」

「ほう。そりゃ忙しそうだな」

「おかげであまり家に帰れない。中崎町だから、そんなに遠くもないんだけどね」

「そうかあ。で、具体的にはどんなこと?」

 たいして聞きたくもないが、聞くのがマナー。

 嬉々として話してくれたが、ほぼ理解できない内容だった。


 ただ、級友が充実した毎日を送っているようで、うれしくはなった。

 こんなにハイテンションのやつだったかな。

 それに、こんなに親しそうに話すやつだったかな。

 小さな違和感。

 と言うか、驚き。

 同窓会に久しぶりに顔を出したやつによく持つ印象。


「声、変わってないな」

「そりゃあ。ミリッサ君も」


 声の威力は絶大で、ああ、こんな声だったな、と記憶が解け出すと懐かしさもこみ上げてくる。

 エヌケイビーも同じだったようで、よく来てくれた、懐かしいな、と何度も繰り返し、肩を叩かれた。



 思い出す。高校時代。

 エヌケイビーこと翠剣とのやり取りのいろいろ。

 一緒に出かけたりするほどの仲ではなかったが、学校内でのこと、行事でのこと。

 修学旅行の時の写真には、二人だけで写ったものもあるし、体育祭でハイタッチしている写真もあったはず。

 そうだ。十キロのクロスカントリー大会では同着だったな。

 まあまあ、仲もよかったのだ。


 話せば話すほど、楽しいと思った。

 ヨウドウと一緒なら、もっと。

 もう少し話していれば、もっとたくさんの思い出も蘇ってくる。

 友、という言葉を意識した。


 しかし、そろそろ引き上げるべき時。

 かわいそうに、ジンが立ち尽くしている。


「近々、また寄せてもらう」

「ああ、そうしてくれ」

「奥さんと一緒に、また会おう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ