表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/249

20 見覚えがあるような……

 先生にいてもらえると心強いです、と言われて、首つりのあった現場にいた。


 小さめの石室。

 二の壷(閉鎖中)と看板がある。


 簡易な木の柵で入れないようにしてはあるが、時として不埒な客が入り込んで困ると、さっきココミクが話していた場所。

 夜間巡回のスタッフが発見したらしい。



 ココミクが父親に連絡を入れている。


 そう。男の人が死んで。

 首を吊って。

 すぐ来て。

 私、どうしたら……。

 うん。刑事さんが。

 そう、そう。

 早く。

 わかった。



 刑事が、死体発見者の夜間巡回スタッフに事情を聴きとっている。


 スタッフは、巡回中に必要な道具類が入っているのだろうリュックを肩にかけ、懐中電灯を手にしている。

 いろいろなトラブルに対応してきたのか、落ち着いている。

 

 驚いたのなんのって、と言いながらも、かすかに笑みさえ浮かべている。

 小柄で貧弱な体形。中性的な声。

 だが、芯は強いのかもしれない。刑事の問いにはっきり答え、日々の巡回経路や時間帯をよどみなく説明している。


 片や、現場を見分する刑事たち。

 多くの照明が持ち込まれ、先ほどまでの暗闇は、この二の壷の周りだけすっかり払われている。


 二の壷は、根本道場に比べて半分くらいの深さで、奥行き五メートルほど。

 根本道場に次いで大きいらしい。

 大人が十分立って入れる天井高がある。

 根本道場と同じく、巨石を人の手で積み上げた石室。

 ただ、岩に大きなひび割れがあり、崩落の危険がある。

 これを防ぐため、太い梁材を門状に組み、石室を守ろうとしているという。


 その一番奥、持ち込んだロープを木枠の隙間に吊るし、首を吊ったらしい。



 照明灯に照らし出された遺体。

 ブルーシートに横たえられ、数人の刑事がしゃがみこんで何やら調べている。 

 見たところ、年齢五十前後。男性。

 スリムな体形。

 Tシャツにデニム、スニーカーといういで立ち。


 苦しそうに歪んだ顔。

 前頭部に大きな傷。

 傷口の周りが赤く腫れあがっている。

 伸び放題の無精髭が物悲しい。


 ん?


 どこかで。

 見覚えがあるような……。

 どこだろう。



 男の名はすぐに分かった。

 所持品を身に着けていた。名はクワッチーサビラ。

 もちろん通称だろう。

 登録されている通称であれば、警察の手にかかれば、本名はすぐに判明する。


 ジンは少し離れた暗がりで、ポツンと立っている。

 もう、帰らせてあげた方がいいな。


 あっ。

 二つの黒い影が素早く横切り、たちまち暗闇に消えた。

 まただ……。



 ようやく現れた翠剣は、妻とは対照的に元気そのもので溌溂とした顔をしていた。

 挨拶もそこそこに、警察と何やら話している。


 そろそろ引き上げるか。

 父が来たことだし、もう俺に用はないだろう。


 ココミクの姿は見当たらない。

 客に説明に回っているのだろう。


 声もかけずに黙って帰るわけにはいかないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ