20 見覚えがあるような……
先生にいてもらえると心強いです、と言われて、首つりのあった現場にいた。
小さめの石室。
二の壷(閉鎖中)と看板がある。
簡易な木の柵で入れないようにしてはあるが、時として不埒な客が入り込んで困ると、さっきココミクが話していた場所。
夜間巡回のスタッフが発見したらしい。
ココミクが父親に連絡を入れている。
そう。男の人が死んで。
首を吊って。
すぐ来て。
私、どうしたら……。
うん。刑事さんが。
そう、そう。
早く。
わかった。
刑事が、死体発見者の夜間巡回スタッフに事情を聴きとっている。
スタッフは、巡回中に必要な道具類が入っているのだろうリュックを肩にかけ、懐中電灯を手にしている。
いろいろなトラブルに対応してきたのか、落ち着いている。
驚いたのなんのって、と言いながらも、かすかに笑みさえ浮かべている。
小柄で貧弱な体形。中性的な声。
だが、芯は強いのかもしれない。刑事の問いにはっきり答え、日々の巡回経路や時間帯をよどみなく説明している。
片や、現場を見分する刑事たち。
多くの照明が持ち込まれ、先ほどまでの暗闇は、この二の壷の周りだけすっかり払われている。
二の壷は、根本道場に比べて半分くらいの深さで、奥行き五メートルほど。
根本道場に次いで大きいらしい。
大人が十分立って入れる天井高がある。
根本道場と同じく、巨石を人の手で積み上げた石室。
ただ、岩に大きなひび割れがあり、崩落の危険がある。
これを防ぐため、太い梁材を門状に組み、石室を守ろうとしているという。
その一番奥、持ち込んだロープを木枠の隙間に吊るし、首を吊ったらしい。
照明灯に照らし出された遺体。
ブルーシートに横たえられ、数人の刑事がしゃがみこんで何やら調べている。
見たところ、年齢五十前後。男性。
スリムな体形。
Tシャツにデニム、スニーカーといういで立ち。
苦しそうに歪んだ顔。
前頭部に大きな傷。
傷口の周りが赤く腫れあがっている。
伸び放題の無精髭が物悲しい。
ん?
どこかで。
見覚えがあるような……。
どこだろう。
男の名はすぐに分かった。
所持品を身に着けていた。名はクワッチーサビラ。
もちろん通称だろう。
登録されている通称であれば、警察の手にかかれば、本名はすぐに判明する。
ジンは少し離れた暗がりで、ポツンと立っている。
もう、帰らせてあげた方がいいな。
あっ。
二つの黒い影が素早く横切り、たちまち暗闇に消えた。
まただ……。
ようやく現れた翠剣は、妻とは対照的に元気そのもので溌溂とした顔をしていた。
挨拶もそこそこに、警察と何やら話している。
そろそろ引き上げるか。
父が来たことだし、もう俺に用はないだろう。
ココミクの姿は見当たらない。
客に説明に回っているのだろう。
声もかけずに黙って帰るわけにはいかないか。




