表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/249

15 土地の力、これを増幅する

 ペンタゴンの内部は、神社の境内に似ていた。

 違うのは、本殿拝殿といった建物の代わりに巨石が鎮座していること。


 もらったパンフレットには、こう記されてあった。


 飛鳥に都が遷るはるか以前、この地は海に突き出た半島で……。

 難波津を眼下に望む台地の中央を、古代の人々は……。

 交通の要衝であるこの海を鎮めるため、この地に竜神社が祭られ……。

 京の都の時代には都人が詣で……。

 大坂の陣の戦火を潜り抜け、江戸時代に入ると、庶民の間に霊験新たかな竜神さんとして親しまれ……。

 かつて、一辺三丁、現代の約三百メートルにも及ぶ正五角形をした境内は、時代を経た今、かなり縮小されはしたものの、今なお、幽玄の趣を残し……。

 なお、この地は、狐庭台こていだいと呼ばれている。

 狐が多く生息し、彼らが遊ぶ穏やかな地、であったのだろう。

 現在では、通称「上町ペンタゴン」と呼ばれている。



「ふうん。奈良時代よりもっと前からパワースポットとして人気あったんだ」

 ジンがしきりに感心している。

 ココミクに聞かせるサービスなのかもしれない。


 が、森は薄気味悪さを感じる。

 荒れている。見通しも悪い。

 不吉な感じ。

 さっき、ほかでもないアイボリーがそう感じたのだ。

 用心に越したことはない。



 森を巡りながら、ココミクが説明してくれる。


 なんとなくなんですけど、ペンタゴンっていうのが違うなー、って思うんです。

 実は、この名前、私の曽祖父が言い出したらしいんです。戦中の人だから、そんな名前を思いついたんでしょうね。その時すでに五角形じゃなかったのに。

 それが最近になって定着しちゃって。


 気がかりは、お客さんが減ってきたこと。

 あまりに有名になりすぎたのかも、って思うんです。

 行列ができるパワースポットって、なんだかな、という気がしますでしょ。

 大々的に評判になってるパワースポットって、どうなん、っていう気もしますし。

 宣伝なんてしてないですし、ご覧のとおり、昔の形のまま。

 ほぼ放置状態がいいと思ってるんですけど、いろいろ、ネットでは悪評が書かれたりして。

 よくあるやつです。

 トイレが少ないとか、汚いとか。

 休憩するベンチを設置せよとか。

 虫が多いとか。蚊だらけとか。

 売店もないとか。

 もう、いろいろ。


 テーマパークじゃないんだし、そもそも家族経営だし、弱ってるんです。

 先生、どう思われます?



 なぜか、ココミクはヨウドウにではなく、俺に聞いてくる。

 確かに、この子を教えたのは俺だ。職員のヨウドウではない。

 ヨウドウめ、これも読んでいやがったな。


 そういえば。

 ココミクの卒業設計。

 都心のエアーポケット的鎮守の森の改修、というようなテーマだったと思う。

 非常勤講師の身、学生たちの卒業設計や論文に関与することもないし目を通すことさえないが、ココミクから見せてもらった記憶がある。

 なるほど、ここを念頭に置いた卒計だったのだな。


「君の卒業設計」

「あ、覚えてくださってたんですね!」

「あれは確か、現代人が親しめる環境づくり、みたいな方向性だったような……」

「うわ! うれしいです!」

「じゃ、その方向は?」

「いいえ。あれは、その、まだ、経営的なこと、何も知らなかったときのもので。お恥ずかしい限りですが、そんなうわべだけの改修なんて、意味がないと今は思ってます」


 ふむ。

 正しい見識だ。

 ココミクらしい。

 物事を真正面から捉えようとする。


 ならば。


「本質、これが大事だよね。つまり、この土地の力、これを増幅する。決して、観光客の側から見た魅力に迎合、とかじゃなくてね」


 完全に、その場の思い付き。


「観光客という言い方はふさわしくないかもだけど、よくあるだろ。歴史ある名所旧跡、いわば地域の宝が、いちげんさんの観光客向けの施設に変貌してしまってる例。看板や広告やらなにやらに埋め尽くされて、訳の分からんゆるキャラが跋扈してて、肝心の歴史を感じられなくなっている事例が」


 と、そんなことを話していた時だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ