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13 パワースポットとしてはまだ時刻が早い

 近づくにつれ、上町ペンタゴンの異様さが見えてきた。

 異常に高い塀に囲まれ、中の様子を窺うことはできない。

 塀の上から、大木が林立しているのがわかるのみ。

 黒っぽい土塀は、上塗りがいたるところではげ落ち、中の白い土が側溝に零れ落ちている。


 サインがあった。

 矢印。

 入口こちら、とだけある。

 なるほど、こっちは裏側ということか。


「なんだか、たいそうな塀」

「それにさびれた感じ。このさびれた感がいいのかもしれないな」

「確かに。でも、陰気すぎない?」


 大通りから塀に沿って折れた。

 細い道。右側は住宅街。大木の枝が道を覆い、ぐっと暗い。

 いつの間にか、空に茜色は消え、黄昏時。



 少し先を行くカップルが、街灯の下に入って、その輪郭がはっきりした。

「あの二人も、行くのかな」

「さあ」

「でも、ここってさ、だいたい、一人で行くところなんだって。縁結びの神様じゃないんだし」


 正直言って、上町ペンタゴンに興味はない。

 ココミクが、この受付前を待ち合わせ場所に指定してきただけ。

 ジンとアイボリーともそこで別れたらいい。

 自分たちはそこらで晩御飯、ジンとアイボリーは上町ペンタゴンに、ということになるだろうと思っていた。

 ココミクの家に行くなど、ありえない。


 前を行くカップルの姿が消えた。

 街灯の光が届かない暗がりに入ったのか。

 それにしては、唐突に消えたように見えたが、気のせいか。




 上町ペンタゴンはかなり広く、昔はほぼ正五角形をしていたらしい。

 江戸時代以降、市街地が侵食し、その中央部のみ、残されているという。

 百メートルほど歩いて、ようやく最初の曲がり角に来た。


「ここか」

 角を曲がってすぐ、入口があった。

 裸電球がぶら下がり、色褪せた黄土色のテント屋根。

 ひと昔前の廃れた遊園地か、小動物園の入口のような風情。昭和感満載。


 小窓のある受付と、鉄柵のゲートがあった。

 老人が一人、チケットを購入しようとしている。

 料金表は錆びて文字がところどころかすれている。

 特別入場料一名四千四百円、一般入場料一名八百円、とあり、小児の但し書きや障害手帳のお持ちの方は云々、と記されてあった。



 さて、ココミクは。


 待ち合わせ時刻は六時半。まだ、十分ほどある。

 この老人以外、誰もいない。

 閑散としているが、パワースポットとしてはまだ時刻が早いのだろうか。


 中の様子は見えない。

 マキの木の高生垣で遮られ、薄暗闇の庭園らしきこと以外わからないが、静かではあるようだ。

 ジンは案内板の説明を読んでいる。

 熱心に写真まで撮っているジンをそのままにして、道に出て待つことにした。

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