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10 真似せんでよろしい

「どこで?」

「ココミクの家」

「え? 家? それ、唐突だな」

「だろ。実家だ。さすがにそれは、って言ってある」

「そりゃそうだ。で?」

「上町ペンタゴンで待ち合わせ。知ってるか?」

「いいや」

「家もその近くらしいけどな」


 と、ジンが反応した。

「知ってます。行ってみたいと思ってました!」

「おいおい。一緒に行くつもりか?」

「ね、行こ行こ、アイボリー」

「え、でも」

「いいじゃん。沖縄ライブ居酒屋は今度でも。予約もしてないんだし」

「ご迷惑じゃないかな」

「違うよ。その何とかさんのお家じゃなく、上町ペンタゴン」



 ジンによれば、最近はやりのパワースポットらしい。

 SNSや雑誌で頻繁に取り上げられているという。


「ミリッサ先生、ダメ?」

「ヨウドウに聞け」


 ヨウドウはあっさり、

「いいと思うぞ。でも、ココミクがいやそうだったら、別行動するんだぞ」

「えっ? だからお家には行かないって」

「待ち合わせ場所」

「あ。じゃ、後ろからコソコソって、ついて行きます」

「そこまでせんでもええぞ」

「なんかオマエ、まどろこっしい話し方、してないか?」




 JR神戸線から環状線に乗り換え、玉造駅で降りる。

 上町台地に向かって緩い登りが続く。

 比較的、緑が多い。

 ヨウドウはスマホのマップを見ながら、鼻歌でも出てきそうな足取りだ。


 さては、ヨウドウめ。

 最初から俺だけじゃなく、ジンとアイボリーも連れていくつもりだったのか。


 ココミクが自分たちの大先輩、競馬サークルのOBと知って、ジンもアイボリーも俄然その気になっている。

 アイボリーはピクニックデートに行く時のようにランラン気分だし、ジンは喋りづめ。


 ね、ミリッサ。今度の日曜、楽しみですね。久しぶりの京都競馬場。

 今週から、部員がまた増えるんですよ。

 知ってますか?

 ミカンちゃん。三回生。

 先生の授業、二年の時から受けてました?

 ランもハルニナ先輩もスペーシア先輩も来てくれるって、連絡ありました。

 賑やかになりますね。

 サークルが活発なのって、ヨウドウ先生やガリさんのおかげ、ありますよね。

 もちろん、ミリッサがこれまでみっちり、ボクらに清く正しくあれって、教えてくれたからだし。


 などなどと。


 

 この辺り、下町で人通りは多い。

 少し前を行くヨウドウとアイボリー。ジンと後ろをついていく。

 五十になろうかという男と二十歳そこそこの女子大生のカップル。

 並んで歩いていても、気に留める者はいない。

 親子揃って帰宅、とでも見えているのだろう。


 常々、学生と二人きりで店に入ったりはしない。

 放課後、大学から駅までの帰り道を、授業内容がどうだとか言いながら下っていくことはあっても、遠く離れた大阪の街中、しかも夕方、二人並んで歩くのは、どことなく落ち着かない。


 へそ出しルックのジン。

 自分のことを「ボク」という、ボーイッシュな女の子。

 九月ともなれば、学生たちは早々に秋の衣装を纏い始めるが、ジンはへそ出しコーデにベージュのショートパンツ。さすがにチューブトップではないが、まだ暑い季節、合理的だ。


 その元気印の女の子に、袖を引っ張られた。

(前と離れよ)

 カールした睫毛のくりくり目が言っている。

 見れば、ヨウドウとアイボリー、腕を組んでいる。

(そうだな。ちょっと後ろから行くか)


 白いワンピースにベージュのロングスカート。

 そのアイボリーに、白いジャケットを羽織ったヨウドウ。

 どちらも長身でスタイルがいい。

 夕焼け空の雑多な街角で見れば、ちょっと映画のワンシーンのよう。 

 二つの長い影が、ぴったりくっついていた。



 ジンが腕を組んできた。


「真似せんでよろしい」

「ダメ?」

「だめ」

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