108 無言電話
たちまち昼休みは終わり、話は放課後に持ち越しとなった。
いつもの教室とは言ったが、そこだと誰かに聞かれる可能性がある。
キャンパスの北端、テニスコートのある庭園の藤棚で日没まで、ということになった。
ヨウドウは、早退してでも参加する、と言った。
そのヨウドウをガリが熱い目で見ていた。
ヲキに電話を入れた。
用件はミカンのこと。
ハルニナかメイメイに、ミカンがPHカニなのかどうか、教えてほしい。
そして、二人はパクチー汁を飲んで療養しているのではないか。
本来、すでにPHではなくなった俺には教えられないこと。
そこをなんとか、頼む。
彼女たちの行先を探してるんだ。
そう、伝えてはくれまいか。
それでヲキさん、結果を教えてほしい。
ひとつ、迷っていることがあった。
サリが死んでいたこと、そしてアサツリの死体を発見したこと。
これを、ジンらに言うべきか。
この二つの事件、警察はまだどんな発表もしていない。
世間にはまだ知られていない。
アサツリ事件について、ヴォルガに照会はしてある。
捜査は始めているが、手が回らない、というのが実態、だそうだ。
百名以上の行方不明者を抱えた状態では、こう言っては申し訳ないが、死体はどうしても後回しにならざるを得ない。
広域の県警に応援要請をしているが、まだ人手は全く足りていない。
したがって、能勢の事件の公表は今はできない。
理解してほしい。
とのことだった。
きっと京北事件も同じことなのだろう。
クワッチーサビラの自殺など、なおさらだ。
「そしてもう一つ。京都競馬場に苦情が殺到しててね」
と、ヴォルガは言った。
それはそうだろう。
百余名の人が京都競馬場から消えたのだ。
文句の持っていき場はJRAにしかない。
「それはそうなんだけど、違う苦情もあって」
「ん?」
「無言電話」
「は?」
「いなくなった人の家族や職場や知人に、京都競馬場から無言の電話が架かってきてるのよ。警察でも確認した。確かに、架け主は京都競馬場内の固定電話から。事務所やお店にある電話機」
「んん?」
「電話機本体から指紋を検出しようとしてるんだけど、手袋でもはめているのか、検出できなくてね」
「職員のいたずらだとしたら、強烈な嫌がらせだな」
「その線でも調べてるよ。でも、まだ成果はない」
二つの殺人事件。
ジンには話しておくべき、とは思うが、ヨウドウの耳に入れるわけにはかない。
娘の失踪と、殺人事件をまぜこぜにて、話すわけにはいかない。
アイボリーは死んでいる前提で話している、ととられかねない。




