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105 滝壷の落ち葉

 ほんの一分も歩かないうちに、落差数メートルほどの小滝が見えてきた。

 水量は多くないが、崖の真ん中から、端から、いろいろなところから噴き出している珍しい滝。

 看板に、何やら案内が書かれてあるが、読み取ることはもはやできない。


 さらに進むと、意外と広い滝壷に出た。


 ふむ。

 滝の両側にせり出している岩肌に、窪みがつけられ、ひと形が彫られてある。

 龍神なのか、不動明王なのか、苔むして、輪郭さえ不明瞭。

 滝壺を覆うように、ヤマモミジの枝が垂れ下がり、薄暗い。

 水の中には落ち葉がびっしり沈んでいて、陰気な雰囲気。



 あ!


 業者のひとりが、大声をあげた。


 足!

 あそこ!


 見れば、滝壷の縁、木の枝に覆い隠された水中。


 長ズボンに黒い革靴。

 脛の肉が覗いている。


 死んでる!


 うつ伏せに全身を水に浸している。

 体の上に落ち葉が降り積もり、そもそも胴体があるのかどうかもわからなかった。




 警察に状況を説明する間、驚きを隠せないでいた。

 刑事がそれを見逃すはずがない。


「おたく、被害者をご存じなんですね」


 刑事は被害者という言葉を使った。

 明らかに刺殺されていた。


 殺された男。

 見知った男だった。


 JRA職員。京都競馬場勤務。

 ルリイアの上司、アサツリだった。




 この男には因縁がある。

 ルリイアに一方的な好意を寄せるあまりに、ルリイアと親しい自分に対して攻撃的な態度を取り続けた男である。


 しかし、ルリイアから聞いたことがある。

 JRAを辞めて、正しく言えば、依願退職となって、本当にホッとしました、と。

 きっと、あれだ。

 ルリイアのために、ありとあらゆる嘘をつき続け、さすがに組織として看過できぬ、となったのだろうと思っていた。


 こんなところで殺され、腐乱死体となっていたのか。


 それをまた俺が発見するとは、因縁は続くもの。

 気分が悪いどころではなかった。



 刑事に、アサツリについて属性的な意味で知っていることを話したが、ルリイアのためにという部分、依願退職になったという部分は省略した。

 ルリイアに面倒が降りかかっては申し訳ない。

 刑事が調べたいのなら調べるだろう。


 また、お聞きしたいことが出てきた折には、よろしくお願いします、と言う刑事らを残して、早々に立ち去ったのだった。

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