101 緩慢衆愚の国
福島の自分の部屋に帰り着き、まずはネットニュースを漁った。
三時のテレビニュースにはまだ少し間がある。
京都競馬場からは何の発表もない。
京阪電車は今朝になってようやく運転再開。
相変わらず、原因について明快な発表はない。運行システム上の不具合というのみ。
宇治川と桂川の水位は依然下がったままで、これについても原因の発表はなし。専門家の調査待ちとのこと。
瀬田川の洗堰は全開だし、天ケ瀬ダムの放流量もマックスだそうだ。
新たな情報もあった。
かなりの広範囲で、家庭であれ工場であれ、ありとあらゆる電子機器の作動が不安定ないし起動できない状態になったとのこと。
スマホの基地局も例外ではなく、通信障害が出たとのこと。
そして最大のニュース。
京都競馬場の水柱直後から、多くの人の姿が消えた可能性がある、との報道。
発信元によって、行方不明と記しているところもあるし、消失と表現しているところもある。
警察が現時点で把握している範囲で、五十九名だという。
内訳は、男性四十に女性十九。年齢はバラバラ。
さらに増える見込みらしい。
消えた場所は、全員、京都競馬場のスタンドないし平場観覧エリア。十一レースの京都大賞典観覧中に、とのことだった。
当然、あの水柱との関連が疑われるが、それについて明確に言及している報はない。
水柱に押し流されて云々、と述べている「専門家」の意見が掲載されていて、さすがにバカバカしくなって、ネットニュースを漁るのをやめた。
しずれにしろ、丸一日経って、この程度とは。
日本も緩慢衆愚の国になったものだ。
アイボリーは家に戻らず、家族は心配を募らせている。
ヨウドウとも電話で話したが、説明できることもなく、互いに唸りあうのみ。
ミカンに至っては、家族と暮らしているかどうかさえ知らない。
報せることさえできないことが胸を圧し潰す。
ジンへも連絡。
落ち込んでいることが、声や話し方から伝わってくる。
今週、京都競馬が開催になろうとなかろうと、皆で集まりたいという。
たこ焼き居酒屋案件どころではない。
アイボリーとミカンの行方、これをみんなで手分けして。
異論はない。
そうしなければ。
「もし、競馬が開催されたら、ルリイア先輩の部屋で。で、開催されないってわかった時点で、ミリッサの部屋で、というのはどうですか? ご迷惑ですか?」
構わない。
非常事態だ。
誰彼なしに部屋を教えるのは、今の世の中、抵抗があるが、もはやそうは言ってられない。
が、即答しなかったことを非と取ったのか、
「あるいは、あのペンタゴンで、っていうのも、案としてあるにはあるんですけど」
と、ジンの自信なさそうな声。
うむ。
その案もあるか。
たこ焼き居酒屋案件はかすんでしまっているが、まだ、捨てきったわけではない。
「どっちの方が、ジンはいいと思う?」
「雨だと困るので、やっぱりミリッサの部屋の方が」
「じゃ、そうしよう。競馬が開催されるかどうか、数日中に発表されるだろ。それから皆に連絡するか」
「いいえ。今すぐします。皆も気にしてると思うので」
「だな。じゃ、そうしてくれ」
JRAの公式ページを開いてみた。
翌土曜日曜の京都競馬は開催の方向で検討中、という一文があるのみ。
ただ、決定ではない。
次報を待たねばならない。




