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100 ここ、まさに、ミリッサのおうち、やし

 気づいた時には、また横になっていた。

 おはよー、と声がした。


 ううううーーーむ。

 両腕を頭の上に、全身を伸ばした。


 寝すぎたか。


 いいよ。まだ寝てても。


 そういうわけには。


 どういうわけ?

 ここ、まさに、ミリッサのおうち、やし。



 なるほど、と思ってしまった自分に苦笑しながら、体を起こした。

 ふと、お館様の言葉を思い出した。

 でも、ランには言わないでおこう。

 きっと、とんでもなく喜ぶだろうが、なんとなく。

 照れか?

 保身か?

 なんとなく、だ。



 ランは、文机で書きものをしていたが、立ち上がった。


「コーヒーがいいよね」


 え、コーヒー。

 妖怪の世界、恐るべし、とは思っていたが、コーヒーとな。


 お勝手に立ったラン。

 この部屋と連続した小部屋。

 まさか、電気ポットやガスコンロまで、あるとか。

 あらら、本当にあるようだ。

 ポットのシューという音が聞こえてきた。


 裏の竹林に顔を向けた。

 先ほどと、同じような景色。

 さほど時間は経っていないのかもしれない。


 が、急に気になり始めた。

 向こうの世界では、今、何時だ?


「ラン」

「なに?」

「向こうでは何時だ? 今」


 ランがステンレスの盆に、コーヒーカップを二つ、クッキーの皿を一枚、載せて部屋に入ってきた。


「さあ。というか、その概念、ちょっと違うねんな」

「ん?」

「前に言わへんかったかな。時間の流れ方が違うって」

「聞いたような気はする。あれか? あいだみちの機嫌のいいときは、悪いときは、って話。どっちがどうだったか、忘れてしまったけど」

「まあねえ。それもある意味、そうかな」

「で?」

「どうしたい? ミリッサは」

「ん? 帰りたいかってことなら、もう帰りたい。ジンやガリさんにも話をしたい」



 そう口にしたことで、急に現実的になった。

 まだ、昨日のことだったが、ずいぶん日が経ったような感覚がした。

 あれからどうなったか、聞かなくてはいけない。それに、アイボリーやミカンのことも。


 あ、そうだ。

 ランには礼を言わねば。


「そうそう。ラン。白龍に世話になってな」

「うん。聞いてるよ」

「体を壁みたいにして、俺が水に呑まれるのを救ってくれた」

「うん」

「礼、言っておいてくれ。すまんかったなって」

「ぜんぜん。白龍も河童も、ミリッサが好きやから」

「え、そうなのか?」

「あたりまえやん! あいつら、私の自称親衛隊やねんで。私がミリッサを好きやったら、当然彼らも、ね」


「あ、このクッキー、おもしろい味」


 もう! そっち、行く?


 なんと言うか、この味、ん、何の味やろ。

 へへ、私が焼いてんで。アケビ味。

 思い出せへん?

 二人で紅焔山行った時のこと。


 もちろん覚えている。

 授業の下見に行った時だ。

 あのとき、守衛のライトウェイが教えてくれたアケビの実を取ろうと、沢を渡ろうとした。

 今となれば、なつかしい思い出。

 あれから、一年か。



「さあて、と。そろそろ行動開始せんとな」

「そう?」

「いつまでもここでオマエとくつろいでるわけにもいかんやろ」

「そう?」

「ああ、向こうに戻ろうと思う」

「そう?」

「なんやねん。旦那様は出勤じゃ」

「ハハ。やっと認めたんや。夫婦やって」

「ちょい待ち。あんまり、素直すぎるそのままの反応、やめてくれよな」

「はーい。でも、私はここを留守にできない。いろいろ、あるから。草、呼ぶから」

「草でも何でもいいけど、姿、見えないのは困るぞ」

「うん。これで」


 と、ランが引き出しから取り出したのは。


「おおっ。これ、ジンの?」

「そう。もらった。こんな時に便利そうやったから」


 トカゲ型ペットロボット。

 ジンのお気に入りだった。

 名もつけていた。三四郎。

 ここでまたお目にかかるとは。


「これに憑かせる。そしたら、話もできるでしょ。ちょっと待ってて」

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