98 ふう、、、風が気持ちいい……
「おい」
その獣は振り返るなり、素っ頓狂な声をあげた。
「これはこれは! ミリッサ殿ではござりませぬか!」
途端に人の姿になった。
やはり。
こいつに頼もう。
「カワウソ殿。すまぬが、人間の世界まで、案内を頼めぬだろうか。今すぐでなくてもいいんだが」
「お安い御用でござりまする」
カワウソ妖怪は、幾分胸を張って、ただ、少し困った顔をした。
「ですが、少々お待ちいただけまするか」
「ああ。あんたの手の空いた時でいい」
「かしこまってございまする。拙者、ただいま、ケンジン様の使いにてミャー・ラン殿のお屋敷まで参るところ。ここでお待ちいただいても、ミャー・ラン殿のお屋敷までご同行いただいても、結構でございまする。その後、ミャー・ラン殿のお許しが出ますれば、お送りさせていただきまする」
お、そうか。
このカワウソ、ランの自称親衛隊だったな。
ランの屋敷か。
見てみたい。どんな所に住んでいるのか。
「では、カワウソ殿。ランの屋敷へ参ろうと存ずる。支度をするゆえ、しばし、お待ちくだされ」
こいつの語り口が移ってしまうが、これはこれで面白い。
ランの屋敷は、お館様の御殿からほど近く、村の中ほど、竹林と接する敷地に建っていた。
屋敷とはいえ、ほかの小屋より一回り大きい程度で、塀もなく門もない。
やはり戸はなく、街路から中が見える。
「ただいま、戻りましてござりまする!」
と呼ばわって、カワウソはずんずん中へ入って行く。
草鞋のままだ。
地面よりわずかに浮いた板敷の床。すぐ裏は、竹林。
葉擦れの音をたてて風が通り抜けていく。
「わおっ! ミリッサ、来てくれたんや!」
早速、ルーチンの胸のお守り確認。
「ここに座って」
と、藁で編んだ敷物を勧めてくれる。
「ちょっと待ってて。こいつの報告、聞くから」
カワウソは、聞かせてよいのか、というように少し逡巡を見せてから、ケンジンから言付かった話を始めた。
竹林を眺め、林の芳香と風を楽しみ、ランがここでくつろいでいる姿を想像していた。
カワウソの話はほとんど意識の外にあったが、よく出てくるフレーズには気がついた。
五つの。
霊場。
星。
穴。
石室。
陣。
など。
上町ペンタゴンの話だろうか。
と、巨椋池、という言葉も聞こえてきた。
まあ、いいさ。
昨日から今日にかけて、働きすぎ。動きすぎ。頭も使いすぎ。
慣れない筋肉労働に、慣れない連中との打ち合わせ。
体も思考もフル稼働の連続。
ふう、、、風が気持ちいい……。
眠くなってきた。
ここで、横になるのは無様だし……。




