元高ランクハンターですが魔王城の玄関扉に転職しました
元・遺物回収業者のひとりにすぎなかった私が、単身乗り込んだ先は、魔王城。欲しい情報を握っていそうな心当たりが、魔王しか思いつかなかった……という、単純な理由からだった。
そのとき、手元が狂って、巨大な鉄扉を壊してしまった。
そこにいたのは参謀に少女と体を入れ替えられた、魔王。
壊した扉のかわりに、魔王城の門番として雇われている。
『 世 界 の 異 変 』
漠然とした疑問に対する、機密情報の開示を報酬として。
「どこまで話した?」
グラスをつまみながら、魔王陛下が尋ねた。
――我々は、人間のようで、人間ではない。
ただの一般市民として日々を過ごす者たち。
なんらかの役割があり、積極的に関わる者。
水先案内をつとめる、協力者もいるらしい。
これらの人格は、あらかじめ用意された疑似生命。
赤子から老人まで、創世と同時に産み落とされた。
自己複製を繰り返す、巨大な情報の塊にすぎない。
世界の外側から遺物回収業者を操作して魔物を倒し、解体時に体内からドロップする遺物欠片を収集。遺物工房の元へ持ち込み、使用武器の人工遺物を作成・強化して、より強大な魔物へ挑んでいく――――
「娯楽のために創られた虚像世界……衝撃発言の後」
そして「酔っ払って寝落ち」と続く。衝撃発言が飛び出して、前回は終わった。魔王は眉をしかめて「この身体、酒に弱いのだ。加減が難しくてな」と独り言ち、ワインには口をつけずに、サイドテーブルへ戻した。
咳払いを、ひとつ。
「ふむ、そこまでか」
「そんなところです」
「今は8番目まである時代の、7番目。各時代ごとに様々な理由で魔王は選ばれてきたし、同時に存在すれば分轄・統治。人の世と似ているとは思わないか?」
「まぁ、そうですね」
「吾輩は王子様からの転職だな。世襲制の魔王もいたし、転生系魔王まおちゃん、強大な軍事力を背景に魔王と呼ばれるまでになった、通称魔王もいるわけだ」
「ま、まおちゃん?」
「話の腰を折るな!」
「 ま お ち ゃ ん …」
「現在は、吾輩・まおちゃん・通称魔王の3名がおる」
「まおちゃん続投ぉ?!」
「人気キャラだからだ!」
まおちゃんは、人気あったから、今回も出る。
世襲の魔王は、不憫にも失脚。
不条理だが……合理的理由だ。
「コミカル路線に振った2作目、まおちゃんは登場した。3作目発売後経営破綻、大企業に吸収されて発売された4作目で転生。5・6作目の2本はシリアス路線へ回帰し成功したが、一部から落胆もされた。シリアス×コミカルの融合を目指した意欲作……この世界の特殊性は、既に黄昏時の、御伽噺の中という点につきる」
「数々の世界を創造した、創造神ですか」
魔王は、ワイングラスを傾ける。
窓外の月へ向け、遠い目をした。
「 こ の 世 界 に 。 …… 神 な ど い な い 」
「刹那的ですね。見つけたぞ、世界のゆがみ」
「勿論、宗教はある。信仰しても誰も救わぬ、辻褄合わせの設定にすぎないがな。もっとも、これは。魔王に堕ちた吾輩の言えた台詞ではない……か」
「神の奇跡、と定義された魔法もありますが」
「創造神がいるなら、お客様が神様です、と胸を張る。たとえそれが誤用でもな。すでに8番目の世界は拓かれた。ここは、神に見棄てられた時代なのだ……」
世界を救おうとした勇敢な王子。
討伐し魔王を継いだ、苦い敗北。
それら大切な記憶が。
遺棄されて終焉へ向かう世界が。
まるごと作り話だと知っている。
その懊悩は、想像しがたい。
「魔王陛下はどうしたいんです?」
「吾輩はな――――ん? ぅぬ?」
魔王は庭を指差し「扉を壊したのは貴様だったな」と苦笑した。
超・悪目立ちした、3名の人間。
恥ずかしいピカピカの華美な鎧。
「えっ……ばかなの?」
王国の第一級騎士だ。
悠々と、歩いてくる。
斥候も見当たらない。
「玄関扉、仕事のようだ、侵入を止めてこい」
「戦闘ですか。うーん。1人なら、なんとか」
勝敗の行方は、アーティファクトの性能で決すると言われている。
私のコレは、原典遺物と呼ばれる、貴重なもの。
パーツの寄せ集めを組み上げた加工品とは別格。
なんの調整もせずに動作した、生きていたのだ。
彼等も王国が下賜した原典遺物を手にしている。
見た目はアレでも王国の懐刀、実力者揃いだが。
1対1なら互角だろう。
3対1では、敗色濃厚。
どうしたものかと思案しながら、中庭に降りる。
「なんとか説得できないかなぁ」
「間違いだらけの騎士道精神に人格形成された厨弐病だぞ? 会話が成立するなら苦労は無い。路傍の石に話しかけるのが趣味なら、説得を試みるのも良かろう」
「え? 第一級騎士様と、私が?」
こちらへ気付いていたらしい。
3人が色めき立った。
聖剣士 「剣こそ我が言葉、剣を交えて語るのみ!」
魔術師 「ね~ぇ、もぉ爆破して、い~い?」
聖拳士 「ぬぅえぇぇい! 問答無用だっ!」
聖拳士の『問答無用』が行動理念な連中ぽい。
ダメだコイツら。
聖剣士 「では。行くぞ、魔王ッ!」
魔術師 「でる☆ もぉ出ちゃう☆」
聖拳士 「正義の拳を受けてみよ!」
「 NO KINGDOM, NO LIFE. ブレないキャラだな」
「まぁ確かに……命知らずの脳筋揃いですけどね」
「玄関扉は、どれか1つで良い」
「残り2つは?」
「トージにカンロ、できるな?」
ところで。
魔王陛下の、それは……名前? どんな魔物?
聖剣士 「ジャスティスフラッシュスパ――――――
魔術師 「超級波動型獄炎魔法☆どらぐ――――――
聖拳士 「精気百倍・意気軒昂!アンパ――――――
ちょっ……他はともかく聖拳士の技。
魔王城を、一撃粉砕する系じゃない?
職 場 が 無 く な る っ !
籠手を装着した瞬間、虚空に巨大な腕が現出ッ!!
金属製の巨大な腕が、聖拳士の右手からゴウッと放たれた衝撃波をゲンコツごと握り潰して、そのまま拳士を殴り付ける動作を綺麗にトレースしていく。
「 ど っ せ ―― ぇ え い !! 」
「 ぬ わ ぁ ん だ と ぉお ?! 」
同時。
純白の騎士が、音も無く現れた。
抜きざまに剣士の剣を受けつつ、魔術師の放った爆炎に、騎士が左手から放った見たこともない魔法が殺到し威力を相殺していく。
ガ ギ ィ ィ ィ イ ン!!
どっ どぱぱぱぱぱぁん☆
第一級騎士3名同時の、初見殺しな攻撃。
残る2つを、全て受けきった魔王の配下。
その実力もさることながら……
目を見張るのは、その体躯。
「で か い ……身の丈、倍以上の人型」
「複座式魔操重騎兵、シュヴァリエブラン」
「こんな魔物、見たことないです」
魔王は「道理だな」と呟いた。
「遺物欠片を盛大に使い倒して製造した人工遺物、魔操重騎兵。2作目にだけ登場していた、アイアンゴーレムなのだが。本人は、ロボット、と呼んでいたな」
「旧世界の技術ですか …… 本 人 ?! 」
あの巨体を人間が使役してる?
「王国の召喚した子供が、2人乗っておる」
「召喚っ……乗る? 中から動かしてる?」
「我々はゲームの駒にすぎない存在かもしれん。それこそ、文字通りの意味でな。あの2人は違う。外の世界から復元されて来た。実存世界の人間なのだ」
外 の 世 界 か ら 来 た ――――
「得体の知れぬ呼び声に応えた結果、召喚……ではないな。正確には、こちら側へ逃げ込むことに成功したのだ。そんな2人が、命にかかわるほど危険な情報改竄を施されていたと知った。王国に疑問を持って当然だろう?」
「魔王城へ攻め入るフリをして、直談判に来たんですか」
子供2人、王国を相手取る方法。
魔王しか、心当たりが無かった。
少しだけ、自分の行動と重なる。
「魔界参謀ゲヘヘが勇者を始末した……あれは」
「こちらが流した偽情報、時間稼ぎが必要でな」
「えぇえ? ……だって、魔王陛下。その恰好」
魔王は現在、村娘の体に憑依している。
魔王の威厳とか、謎めいた雰囲気とか。
失ったものが多すぎた。
逆に、おっぱいとかは大きくなってる。
人気キャラになる可能性は……増した?
「ゲヘへの筋書きが難しすぎるのだ! 唯唯諾諾と聞いておったら身体を入れ替えられて、ろくに話も聞いてもらえぬ魔女裁判。吾輩に、どうせよと言うのだ」
人間くさい魔物の王。
王子様から転職した。
「魔王陛下」
懊悩は、想像しがたい。
愚痴のひとつも、言いたくなるだろう。
「どんまい」
さて、と。
魔王城で仕事の続き。
業務内容は、玄関扉。
侵入者から、土地建物を護るのが仕事です。
魔操重騎兵の上半身が割れて、子供が首を出した。
「魔王さ~ぁん。この3人、どうすんの?」
「全員、裸にひん剥いて毒沼に沈めておけ」
「「「 ひ ぃ ―― ぃ い い !!! 」」」
「さすがに死なれちゃ~寝覚めが悪ぃけど」
「ジワジワ短くなる体力ゲージ、ギリ渡れる、そうなっておる」
「あっそ、りょ~かい」
「「「 ひ ぃ ―― ぃ い い !!! 」」」
まぁ……ややブラックな職場なんですけれど ――――




