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第一話 召喚されし夜

「うぅむ、今日もいい風が吹いておるのう」

天狗は黒い翼をはためかせ、夜の空を滑空していた。いつもの回遊だ。


そのとき、下から声が聞こえた。


「おーい!天狗ー!」


天狗が下を見ると、甲羅を背負い頭に皿を載せた河童が手を振っていた。


「ん?」

「どうした、河童よ?」


河童は笑いながら言った。

「面白いもの見つけたんや!」


「面白いものってなんだ?」


河童が手のひらに収まるほどの四角い黒い板を差し出す。


「なんだ?これは?鏡か?」

「鏡ちゃうわ。これはスマホいうねん」


「スマホ?」


河童は自慢げに説明した。

「この平たい板だけで音楽を聞いたり、地図を見たり、電話もできる。ボタンを押すだけで動かせるんや。ほら、見てみ!」


河童は画面に映った写真を天狗に見せた。


「ほう、これはまた奇っ怪な」

「天狗は遅れとるなぁ」


河童は鼻を高くし、天狗を煽った。


「そんなもの、何になる?使いこなせるのか?」

「ふふん、俺は何だってできる。まかしとけや」


「また人間を驚かして、そやつに聞いてきたんだろう」


河童は少し顔を逸らす。このご時世、人間を驚かす妖怪はいない。

時は情報の時代。写真や動画は瞬く間に世界を駆け巡り、妖怪たちの住処も人間に踏み込まれる。最初は追い払っていた妖怪も、手出しできないと知ると人数は増え、今や自由に振る舞えない状況だった。


「おぬし、この間のぬらりひょん殿の話は聞いていなかったのか?」

「お前が写真に撮られたら、あの場所のように住処が壊されてしまうのだぞ」


「わかってるわ。今回は大丈夫や。先にスマホを取り上げたからな」

「そういうことでは無い」


数百年前までは、人間と妖怪は共に助け合って生きていた。しかし今は承認欲求を満たす“ネタ”としてしか扱われない。妖怪にとって生きにくい世の中になってしまったのだ。


「ええやん、下界は美味いもんあるし、女子はかわええし、面白いもんぎょうさんあるで。スマホをもらったやつに聞いたんや」


「はぁ…貰ったのではなく、盗ったんだろう」

「今日も行こうと思ってんねん」

「だからやめろって」


その瞬間、地面が光った。


「な、なんだこれは!」

「眩しい!なんやねん!」


二人の周りに光の円や見たことのない文字が浮かび上がり、どんどん強くなる――



---


「ん…」


天狗と河童が目を覚ますと、見慣れない建物の中にいた。

壁や柱は豪華に装飾され、天井のステンドグラスが輝く。


「どこや、ここ」

「な、なんだこいつらは!?」

「魔法士長!これはどういうことだ!」


周囲は騒然としており、二人は体を起こした。


「申し訳ありません!魔法陣は間違っていなかったのですが、詠唱のどこかが…」


天狗が周りを見渡すと、ローブを着た人間が数人、周囲を囲んでいる。金の輪を載せた人間が怒っていた。


「あの、すまないがここはどこだろうか?」


天狗が問いかけた瞬間、金の輪の人間が叫んだ。


「しゃ、喋った!!魔物が喋るなんて聞いたことありません!」


魔法士長の顔が引きつる。


「とにかく、この者たちを捕らえろ!衛兵!早くしろ!!」


天狗と河童は、ここで捕まったら終わりだと理解した。


「ひとまず逃げるぞ」

「わかった!」


天狗は漆黒の翼を広げ、河童は水球を放ち窓を破壊。二人は外へ脱出した。


下界を見下ろし、天狗は言った。

「ここは…日本ではない」

河童は口を開けたまま固まる。

「じゃあ、外国か?」

「いや、異世界だ、上を見てみろ」


空には紅と白の二つの月が浮かんでいた。


「マジや…ほんまに異世界ってやつか…」


二人は夜風に吹かれながら、街の外を目指して歩き出した。



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