忘れていた感情
あの日、ただ何気なくテレビを見ていて、ただ毎日の日常の中を生きていただけなのに。
そこに光る君を見つけて、人生が大きく動き出した。
ずっと、生きている価値も生きている意味も理由も自信も何も見つけられず、ただ時間を寿命を消費しているだけの人生だった。死ねないから生きていただけだった。もう半分はそんな感じで寿命を使ってしまった。
食べることも笑うことも心を震わすことも何も魅力に感じない。
性別に囚われた生き方も捨てた。家から這い出せば、空はいつだって朝も夜も輝いていて、嵐の日さえ、私より輝いている。それでも私は死ぬことを許されない。
雨に濡れても、凍える日も、何も感じない。空腹すら感じない。
ただひとつ感謝したことは、私には子供も愛する人も居なかったこと。迷惑をかけたり、辛い思いをさせずに済んだこと。心から感謝した。
いろんな髪型やカラーをして、アレンジをして、いろんなメイクをして、いろんな美容に気を遣って、いろんな洋服を楽しんで、いろんな旅をして、いろんな食事をして、恋をして、恋愛をして、そんな当たり前の生き方を闘病中は望まないように生きてきた。年齢的に妊娠も難しくなる中で、自分の心の声に気付かず死んでしまいたかった。
でも、君を見つけて華やかな世界に憧れてしまった。高くのぼりたいと気付いてしまった。
ずっとずっと目を背けて見ないフリをして、下を向いて、辛い時にはたくさんあり過ぎる時間をただ消費して生きるしかなった。ダラダラと途方もなく続く暗いトンネルしか私の前に無かった。
君と同じ舞台に憧れた訳じゃない、ただ自分が望む生き方に気付いてしまった。君と出会って、素直に感謝出来ないくらい痛い現実に気付かされてしまった。
「どうしてくれるのよ。」
見なかったら気付かなかったら、もう死ねたのに。幸せに生きたいと願ってしまった。君みたいに素敵な仲間に囲まれる人生を望んでしまった。自分もそうなりたいと気付いてしまった。
学生の頃、たった一度だけ私の為に母親が親戚に頭を下げてくれたことがある。
小説家になる夢。その為の費用。
それ以外は、病気になっても他人事だったのに。
もう一度、その夢を追いかけたいと望んでしまった。本当にやりたいと思うことに気付いてしまった。
君さ、どうしてくれるのよ。生きたいと叶えたいと望んでしまったじゃない。
「くそったれ。」