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隠せない気持ち


 彼女と別れた帰りの新幹線で、ずっと一人で考えていた。

自分には何ができるのか。


 私は子供の頃から自分のことを大切にしたことがない。

よくテレビで見かける発展途上国で、小さい子供が服とも呼べない布をまとって、虫がたかり、不衛生でも、何も感じない。食べる物が無ければ死ぬだけ、病気になれば死ぬだけ。

夢の意味も知らない。

ただ寿命を消費して、誰かに優しくされたり愛されたりしなければその方法も分からない。


私の価値観はそんな感覚に似ていた。

だから自分にも相手のことも思うように大切にできない。


ただ、友人は彼女は違った。

自分のことも相手のことも大切に想える優しさと愛があった。

彼女の発する言葉、ひとつひとつがすべてが雷に打たれたような衝撃だった。

すべて私とは正反対だった。


自分の価値が無い、大切にできないことを伝えた時に言われた一言があった。


「それなら私の時間をつかわないで欲しい。」


その通りだと思った。けど、どうしたらいいか分からなかった。


ずっと考えていた。

ずっと。


 「彼女の時間を消費するのを許されるくらい価値のある人間になって、感謝を受け取ってもらえる人間になりたい。」


 新幹線から降りて、家に帰りたくないと願いながら待っていたバス停で、気づいたらぐしゃぐしゃになるくらい泣けていた。

次から次へと涙が止まらなかった。

怖かった。友人である彼女を失うのが。どれだけ大切に思っても人の心だけは繋ぎ止めておけないのを知っていたから。人を信じるのが恐ろしかった。

 ただそれは、自分が傷付かないように逃げていただけで、このままそれを続けていたら本当に失った時にどれだけ後悔するのかも分かっているはずなのに。


 愛さなければ大切に想わなければ、失った時に傷付かないと、逃げたかった。

君もあの時の誰かと同じなんでしょ。と突き放してしまいたかった。


ひとりで生きていくのは楽なのかもしれない。

誰とも比べなければ幸せなのかもしれない。

でもどうやったって人は人の中でしか生きていけない。


大切だから居なくならないでと、ダダをこねてどうにかなったらよかったのに。


どうやったら大切な友人に感謝を受け取ってもらえるような人間になれるのか。

どうやったら大切な友人の大切な時間を使ってもいい人間になれるのか。


 私の人生を否定するでもなく、バカにするでもなく、だからといって共感するでもなく、ただ寄り添って、ただそうかといつも聞いてくれていた。

助けてくれと言えなかった、この数年間。

本当は誰かに助けて欲しかったかどうかも分からないくらい辛かった。

 でも、もうダメだって言える人が残っていってくれたことに感謝しかなかった。


私は彼女のことが大切だ。

失いたくないと思った。

また自分から離れていってしまうのでは無いかと恐ろしくてたまらなかった。

逃げたくなった。

疎遠になりたいと思った。

もう裏切られたくない。傷付きたくない。

これ以上、痛い思いをしたくない。


本音は失いたくないと思うのに、どうしたらいいか分からなかった。

彼女はどう思っているのだろう。

また会ってくれるのだろうか。


 でも、イベントで見た光景を思い返した時、どんどん自分の心がざわついて抑えられなくなってきた。

 あの俳優さんのような主人公になりたいと願ってしまった。

芸能界に憧れた訳では無くて、お互いに信頼し合える仲間と夢を叶える主人公になりたいと望んでしまった。

 気付いてしまった自分の気持ちに嘘がつけなくなってしまった。

油断したら取り上げられそうになる夢を隠しきれなくなっていた。


 人目を気にせず、涙が次から次へと流れてくる。


 本来のファンとは違う自分の気持ちにも動揺したし、この夢のことは否定されるのが怖くて彼女には話せなかった。





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