いざ、イベントへ
「再婚したの。」
そう話す、彼女はとても幸せそうだった。
最初、その報告を聞いた時はハッとした。祝福する気持ちとあまりにも突然の知らせに驚いたのと、何年も同じ場所に取り残されている自分とを比べて少しだけ複雑だったのかもしれない。
前回の結婚も今回の結婚もどちらの旦那さんにも会う機会はなかったが、どちらも良い人だろうと彼女の話から想像できた。
幸せな夫婦生活の時間を奪って、それからはよく彼女と会うことが増えた。そして、いつも私の行きたいところへ付き合ってもらった。
最近になって、急にテレビで見つけて気になっていた俳優さんのイベントにも無理矢理付き合ってもらった。案の定、段取りの悪さに彼女を怒らせながらも、東京のイベント会場に向かった。
百人くらいの収容人数で、大きい会場では無いが、彼のことを応援するファンの人達が楽しそうに開演を待つ。
時間になり、手作り感が満載の会場の中に案内された。舞台があるというよりは一段上がったところに彼が居て、お料理教室のような席の配置だった。とても親近感が沸く距離感だった。運営を手伝うスタッフのほとんどが彼の友人で、ノーギャラらしい。
表に出てきて一生懸命喋る彼より、ファンの人達同士であーだったこーだったと夢中で喋っている様子が、とても微笑ましかった。久しぶりに会う親戚同士の集まりに近い感覚だろうか。
彼の周りに存在する仕事仲間や友人、応援している人達はお互いに信頼し合っていて、尊敬し合っていて、お互いを大切に思っていて、裏切られるとか、そんなこと微塵も気にしていない気がして心から羨ましかった。
二時間弱だろうか、イベントが終わるまでの間、付き合わされた彼女はつまらなそうにスマホでSNSを見ていた。
終盤、ビンゴ大会で彼女が当選した。賞品はツーショット写真の権利だった。
私にそれを譲ると、戸惑う私の背中を押してくれた。 撮影中の記憶はほとんど緊張で覚えていないが、渡されたポラロイドに今まで見た目を気にする余裕も無かった私の現実が写しだされていた。
「似たような顔の人ばっかり好きになるね。」
イベント終了後、そう言って笑う彼女と最寄りの駅まで向かった。
「そうかな、自分ではそんなつもり無いのだけれど。」