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俳優の自分


 最近、よく死んだ後の世界や生まれる前のことを考えることがある。

自分自身に霊感は無いと思っているし、スピリチュアルなことも詳しくは無い。非現実的なことは分からないことが多すぎて苦手だったりもする。

 けれど、視えない世界のことを否定もしないし、信じていないわけでもない。

不思議な体験を全くしたことが無い訳でもないし、知人に霊感のある人がいたり、自分自身も神社仏閣が好きだったりする。

 そして、今回の人生を終えればすべて僕自身が無くなるとも思っていない。ただ、今までの前世の記憶があるまま生きるとしたらそれはとても大変なのではないかと思う。何回あるか分からないし、良い思い出ばかりで無かったり、今世の愛する人が前世では殺人鬼なんてこともあるかもしれない。

 だから、今世、何も覚えていないのは幸せなことなのかもしれない。ただ、もし、出会うべき人と約束をしていたとしたらどんなことがあっても出会わないといけない。今はそんなことを考えるだけでよく分からないが。

 愛知の田舎出身の僕が、俳優という仕事を選んで、今はありがたいことにまとまった金額を手に入れることもできた。女性にもモテるし、仕事もたくさんオファーがくる。自分の年齢が三十を過ぎて、いつか結婚や父親になることも漠然と想像したりするけれど、お付き合いしてもイマイチ人生を最期までとなると決めきれない。愛していないわけでは無いし、顔も性格もきちんと見極めて毎回お付き合いするのに最終的に別れを選んでしまう。それが、何故か分からない。

 同性と仕事の話を真剣にして、先輩には正解の無い相談をして困らせて、後輩には分かったような俳優論を話す。同期とはたまにぶつかったりもして、結局僕も知りたい悩みが増えるだけだ。でも今はそれが辛くても楽しい。そんな生き方を十年くらいしてきた。そんな僕も事務所を独立して三年が過ぎ、性格も丸くなってきた。正解の無い職業に、昔からの親友たちは理解しようと寄り添い、お前は天才だと鼓舞してくれる。本当に周りの人間関係に恵まれている。そういう出会いが無ければ、とっくにこの仕事を辞めているだろう。俳優という仕事が好きなのかと聞かれたら分からない。なんでこんなに苦しんでまでここにしがみついているのかも分からない。親や親戚、友達や応援してくれるファンの人が喜んでくれるからだとしてもあまりにも辛いことの方が多い。

 でも思う。簡単に正解が見つかってしまう仕事だったらもっと早く辞めていたかもしれない。ただだからと言って、俳優を楽しんでやれる人間にはまだなれそうにもない。今はあーでもないこーでもないとマネージャーと話し合って、あっているかも分からない答えを毎日決めていくしかない。僕の哲学を共有できない人とは同じ空間では働けないと周りの仲間にいつも感謝する。

 味がしない。めんどくせぇ。と思いながら料理をして健康を気遣って、何と戦っているんだとイラつきながら体を鍛える。国外の仕事の為に英会話の勉強もかかさない。仕事をしていない時もずっと仕事の為に生きている。

 そんなに体が強い方でも無いし、精神的にも強い方じゃない。だから毎日、自分はここまで準備した。ここまでやりきったと実感が欲しい。さぁ、好きに進んで選んでいいよと言われると本当にどうしていいか分からなくなる。きちんと説明してくれれば、言われた通りにやるよといつも腹が立つ。訳が分からなくて嫌になる。この気持ちをいつも吐き出して、聞いてくれる仲間もファンもいるのにどこかいつも満たされなくて、そんなに真面目に考えなくても追い詰めなくてもと優しい言葉をかけてくれても素直に呑み込めない。

 何もしない時間ができると、俳優である自分の鮮度が落ちていっているような気がして、もう終わりですよと迎えが来てしまうようで不安だ。自分はまだまだやれるのにとこれからなのにと叫んでも羽交い絞めにされて連れて行かれてしまうようで怖い。

 彼女が出来ても、例えそれが癒しでも、愛でも、この問題だけは解決しない。理解されようとは思わないけど、せめて君の中では何よりも一番でありたいと思う。それぐらい重くないとやっていけない。そんなことを自分勝手に思っていると、毎回貴方はどうなのと別れが来てしまう。

 「今回も君じゃなかったか。」


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