第14話 明日への礎②
——……!
駅から降りると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。頭上に広がるきらびやかな空間とは対照的に、地上ではホームレスや薬物中毒者たちが、路上に入り乱れて寝転がり、異様な塊を形成している。生ゴミや薬物特有の鼻を突く臭いも相まって、彼らは人間というよりも、まるで動物園から逃げ出した新種の動物のように見えた。中には、泣いている幼い子供を脇に置き、焦点の定まらない目で注射の針先を凝視し、何度も二の腕の静脈に刺そうとしている女性もいる。しかし、その手元はおぼつかず、何度も見当違いな場所を刺していた。
——そんなことするなら子供を産むべきじゃないでしょ…… 。
僕はそんな胸糞悪い思いを抱えながら、その場を通り過ぎた。僕も、小中学校時代はアメリア連邦の首都ハイネセンにいたが、このような場所には近づかないようにしていたため、初めて間近に見るこの光景は衝撃的だった。ふと、エアリアさんたちに視線を向けると、エアリアさんは「みんな、あまり見ちゃダメよ」と、とっさにクレアとスレイの目を覆うように立ちふさがった。しかし、ロミは彼らの様子をじっと見つめている。この世界には、僕たちのように幸運にも救いの手を差し伸べられた人々ばかりではない。そんな当たり前の事実を胸に刻み、ロミは以前よりも何かを変えようと決意しているに違いない——そう僕は感じた。僕は、ロミの成長を頼もしく思いながらも、この異様な光景から目を背け、目的地に意識を集中させ歩を進めた。
タクシー乗り場に着くと、事前にエアリアさんがフレモで呼んでおいたらしく、タクシーが待機していた。僕らはその車に乗り込む。
最新型のタクシーらしく、地面からの振動をほとんど感じず、まるで家ごと移動しているかのような乗り心地だ。しばらく乗っていると、先ほど列車の中から見えた、美麗で丸みを帯びた尖塔を持つ、天を貫く宮殿のような建物が近づいてきた。目線を下ろすと、川を横切る橋の先に、重厚な門と門番が立ちはだかっている。僕らが近づくと、エアリアさんが門番に声をかけ、入館を許可された。タクシーはそのまま駐車場まで進み、僕らを降ろすと、用事を済ませたと言わんばかりに、さっさと走り去ってしまった。
以前アメリアにいた時と比べこの国に来てから人と人との些細な関係性に僕は敏感になっている気がする。この都市もそうだ。エミュエールハウスのあるイオニア県とは違い、人間関係が希薄な気がする。先ほどもそうだ。お金を受け取れば、目を合わせることもなく、用事が済めばすぐにどこかへ行ってしまった。タクシーが去ったあと、僕の胸に冷たい風が通り抜けた。
この都市では、言葉を交わすよりも、電子決済の音の方が人間らしい。お金を受け取れば目も合わせず、用事が済めばすぐに去っていく——まるで機械のように。
それでも、どこかで温もりを探してしまう自分がいる。僕はそんな思考を胸の奥にしまい、エアリアさんたちの後を追った。
建物の中は、僕が小説や漫画で想像していたような、宝石や金銀で飾り立てられた外装とは違って内装は意外と質素だった。けれど、王宮らしい風格はしっかりと備わっていて、多少高揚していた気持ちが幾分か落ち着いた。エレベーターに乗ると、壁面が透明になり、レガリアの整然とした都市の光景が眼下に広がった。エレベーターが上昇するにつれて、レガリアの建造物群の壮大さが、よりはっきりと感じられる。その様子に、子供たちは興奮した様子で、エレベーターの手すりに掴まりながら歓声を上げていた。するとクレアがエアリアさんに声をかける。
「あれ何? エアリアさん、分かる?」
クレアが指差す先を、エアリアさんは目を細めて見つめる。
「えーっと、何だっけな……。確か、あれはこの国の国会議事堂だと思うんだけど、名前までは覚えてないわ……。シンなら調べてくれるかもしれないわね」
「じゃあ、シン、教えてくれない?」
僕はそう言われ、ステラリンクに意識を集中させ、頭の中で検索する。すると、必要な情報がステラリンクを通じて脳内に直接送られてきた。僕はそれをもとに、クレアの質問に答える。
「確かに、あれはエアリアさんの言う通り、レガリスの国会議事堂だよ。あそこで、国の法律とかが決められているんだ」
クレアは「ふーん」と納得したのか、すぐに興味を失った様子で、もう別の景色に目を向けていた。ロミもクレアと同じように、外の景色に夢中になっているようで、口をぽかんと開けたまま、じっと見入っている。スレイは相変わらず小難しい本を読んでいていつも通りだった。
しばらくすると、式典が行われる会場の階に着いたようでエレベーターのドアが開いた。すると目の前には、僕らが来るのを待っていたかのように、レガリスの制服を着た、紫色の髪をおさげにした眼鏡の女性が立っていた。たぶん彼女は案内人だろう。彼女は僕らに声をかける。
「ようこそ、お越しくださいました。エアリア様ですね」
エアリアさんは「はい、そうです」と答える。案内人は続けて質問する。
「隣にいらっしゃる、制服姿の方はご一緒でよろしいでしょうか?」
「はい、この人も一緒でお願いします」
僕はここ数期、エアリアさんたちと一緒に暮らし、家族のような存在になっていた。しかし、実際には僕は部外者だ。改めてそう思い出し、それ相応の振る舞いをしなければならないと背筋を伸ばした。
僕らはエレベーターを降り、案内人について、式典が行われるであろう会場へと向かっていた。長い廊下をしばらく歩くと、遠くに大きな会場の扉が見えてきた。子供たちに視線を向けるとどんな場所なのだろうと胸を高鳴らせわくわくしているようで、案内人のお姉さんを追い越しそうになりながら、彼女の周りを囲むように歩いていく。すると、スレイとロミたちが、暇を持て余したのか、案内役のお姉さんに興味を持ったようでスレイが彼女に質問する。
「ねえ、お姉さんは、いつもこんな仕事をしているの? エレベーターで人を待っているようなことを?それって楽しい仕事なの?」
「気になったんだけれど、お姉さんとても美人だから彼氏とかいるの?」
そんな子供たちのささいな質問にも、彼女は真摯に答える。
「いいえ、私は普段、ソフィー様の秘書をしています。このようなご案内をするのは、彼女にお会いになるような、大切な方々をお迎えする時だけです。そして残念ながら彼氏はいません」
「「へー……」」
他の質問も考えていたようだったが、かなりの重役であることを知った二人は、そそくさと僕らの後ろに回った。そうこうするうちに、目的の扉の近くまで来たが、秘書はそこで立ち止まり、向きを変えると、すぐ脇にある別の小さな部屋の扉に手をかけ、静かに開いた。僕らは当然、あの大きな会場に通されるものと思っていたので、少し意表を突かれた。
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