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第13話 迷えるロミ②

    ※          ※         ※


 ~三年前~   シン 東アメリア高等士官学校一年生の夏


 空は燃えるような夕焼けに染まり、山よりも巨大なビル群。そして六角形のアメリア軍の本部がまるで僕を見下ろすようにそびえ立っていた。僕は急いで帰路につき、塾へ向かっていた。学校でクラスの係を任され、大幅に時間をロスしてしまったため、寮には戻らず直接向かうことにしたのだ。いつも通る公園の脇を通り過ぎようとした時、聞き覚えのある怒鳴り声と、何かを懇願するような声が、僕の足を止めさせた。

 声のする方へ目を向けると、公園の奥、薄暗くなった木陰に、数人の人影が見えた。中心にいるのは、肩より下まで伸び、顔さえ窺えないほどのダークブラウンのロン毛にチリチリパーマをかけた青年。そして、彼を取り囲むのは、僕の見覚えのある三人の顔ぶれだった。僕は思わず公園の門の陰に隠れて彼らの様子を伺うようにした。

 一人は、ヨブ。七:三に分けられ、ジェルで固められたアシンメトリーヘアが特徴的で、常に高級ブランドの服を身につけている。クラスではカースト一位のような存在で、噂ではかなりの資産家の息子だと聞いていた。財力に物を言わせているのか、その態度はいつも威圧的だった。

 もう一人は、ブラド。ヨブと同じように髪を分け、少し長めの髪を立てたスタイリング。体格も良く、こちらも裕福な家庭の出身で、身につけているものは全て一流品だ。ヨブの腰巾着のような存在だが、財力ではヨブに及ばないためか、常にその顔色をうかがっているように見える。

 そして、ガイ。短めのスポーツ刈りとおかっぱ頭を組み合わせたスタイルで、服装はヨブやブラドに比べると明らかに安物だ。ヨブとブラドから金銭的な援助を受けているらしく、二人の言いなりになっている、まさに金魚の糞のような存在だ。

 そして今、ヨブが青年の胸ぐらを掴み、怒鳴りつけている。ブラドとガイはニヤニヤと笑いながら、青年を後ろから羽交い絞め、囃し立てていた。


「おい、チリチリ頭! 金、貸してやるよ。利子は二期につき五〇パーセントな!」


ブラドの怒声が、公園に響き渡る。どうやら金銭トラブルのようで、長髪の青年から金を巻き上げようとしていた。


「あ、ありがとう……で、でも、もう少しだけ猶予が欲しいんだ。あと四期ほど待ってくれ……必ず返すから……絶対に……絶対に……」


青年は震える声で懇願する。しかし、ヨブは嘲笑うかのように言葉を重ねた。


「は、待ってくれだと? 何度その言葉を聞いたと思ってるんだ? お前みたいな貧乏人に、本当は金なんか貸したくないんだよ」


ヨブは、青年のポケットを漁り始めた。ブラドとガイは、その様子を面白そうにじろりと見ている。


「——やめてくれ……それは……!」


青年が抵抗するが、ヨブは力づくで押さえつけ、財布を取り上げた。中には、わずかな紙幣と小銭、そして金属製のカプセル状のペンダントが入っているだけだった。ペンダントは、ヨブの手からこぼれ落ち、地面に転がった。


「なんだ、これっぽっちか…… あまり舐めた様な行動するなよ!」


ヨブは財布を地面に叩きつけ、ついでに青年の顔面を殴りつけた。ブラドとガイの耳障りな嘲笑が、空気を震わせる。衝撃で地面に叩きつけられた青年は、かすかに光るペンダントへ、泥だらけの手を必死に伸ばした。その惨めな姿に嘲笑を浮かべながら、ヨブはペンダントを拾い上げ、ふと地面に横たわる青年を見て再びペンダントを見てにやりと笑い握りしめる。そして、伸ばされた青年の手を無造作に踏みつけ、嗤いながらペンダントを遠くへ放り投げた。


「ホラ、追いかけてみろ!」


 青年はそれでも諦めず、よろめきながらペンダントを追い、やっとの思いで掴み取る。しかし、その先にはブラドが待ち構えていた。ブラドは青年の手を蹴飛ばし、手から放たれたペンダントを足で踏みつけると、再び持ち嘲笑とともに再び遠くへ投げ捨てた。


「ホレ!」


 投げられた先にはガイが待ち受け、同じようにペンダントを拾い上げヨブに放り返す。ロン毛の青年が追いかけるとヨブがブラドに投げ周回する青年を弄ぶ残酷なゲームが繰り返された。その光景は、飼い犬にボールを取ってこさせる遊びよりもはるかに悪質で屈辱的だった。僕は思わず目を覆った。しかし、体はまるで石のように固まり、その場から逃げ出すことなどできない。ただ、その様子を見て、震えながらしばらく立ち尽くすことしかできなかった。

 彼らの姿は、僕に強烈な印象を刻みつけた。人から金を借りることの恐ろしさ、そして、この社会の理不尽さを。もし僕があの場に割って入ったとしても、今度は僕自身が彼らの標的になるだけだ。この時代、資本家は絶対的な力を持つ。金があれば、どんな横暴もまかり通ってしまう。だからこそ、僕たちのような一般市民には、資本家に認められるように個人の力を磨くことしか道はない。自分の力で状況を打開し、生き抜く強さを身につけなければならない。そのためには、がむしゃらに努力し、社会で認めてもらうための力を手に入れるしかない。そうでなければ、この理不尽な社会の渦に飲み込まれてしまう。

 僕は、見て見ぬふりを決め込み、その場に留まった。しばらく青年を痛めつける様子を見ていたが、さすがに飽きたのか、青年に対し侮蔑的な視線を投げかけると、

 彼らは立ち去った。公園には静寂が戻り青年は地面にうずくまり、先ほどまでもてあそばれた金属製のカプセル——あれほど乱暴に扱われたにもかかわらず、カプセルには傷一つついておらず、不気味な金属光沢を放っていた——それを青年は見つけると、急いで駆け寄った。まるで何よりも大切な宝物のように、泥だらけのそれを大事そうに泣きながらしばらくの間抱えて続けていた。僕はその光景を見ても、不思議とこの世界に対する絶望や諦めを感じることはなかった。むしろ、心に何か硬い決意が宿るのを感じていた。 


“ピロン”


 するとポケットに入っていたフレモが反応した。僕ははっと気がつき、画面を確認すると上半身が急冷する感覚を覚え僕は足早に塾へと向かった。向かう足取りは少々重かったが、理不尽な社会にあらがうため抱いた決意は確かだった。

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日にちが開いた場合も大体0時か20時頃に更新します。


また

https://kakuyomu.jp/works/16818622174814516832 カクヨミもよろしくお願いします。

@jyun_verse 積極的に発言はしませんがXも拡散よろしくお願いします。

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