第12話 解釈できる生き物(にんげん)④
体中が暖かい空気でいっぱいになり、僕はさてと帰宅の準備に取り掛かる。すると、クレアが唐突に尋ねてきた。
「ところでシン、その~なんだっけ……あ、そうだ! そのジェイコブさんって人には会えたの?」
——そういえば、そうだった。
僕は最初に、ジェイコブさんの様子を見に行こうとこの病院に来ていたことを、すっかり忘れていた。僕は先ほど会ったが、エミュエールハウスの三人はまだジェイコブさんと会ったことがない。
「あ、ああ。そこの部屋がジェイコブさんの部屋だよ。ステラリンクで認証しないと入れないけど」
すると、クレアはジェイコブさんの部屋の前へ駆け寄り、「あれ?でも部屋のドア、少し開いてるわよ」と言った。
——しまった!さっき、覗き見した時に、閉め忘れていた!
背中から引っ張られる様な感覚がし、慌てて駆け寄ろうとしたが、その必要はなかった。既に三人は、開いたドアの隙間から、団子の様に頭を並べ部屋の中を興味深そうにじっと覗き込んでいる。僕も今の様子が気になり、彼らの後ろから四つ目の団子として中を覗いてみた。すると、そこには僕の想像をはるかに超えた光景が広がっていた。
「「……」」
ロミとスレイは彼らの様子を固唾を呑んで見守る。
「ジェイコブさんって、あそこにいる男の人だよね?シンが言うには、いかつそうな人だって聞いてたけど……全然そんな感じじゃないわよね。何かもっとほっこりとしたおじさんと言うか……普通に優しそうな人だよ」
クレアが、不思議そうに呟く。その視線の先には、あの強面で冷徹なイメージのあったジェイコブさんが、奥さんと子供たちに囲まれ、穏やかで、優しい笑みを浮かべていた。
『ねえ、それじゃあ旅行、どこ行きたい?』
『しっ!お父さんまだ寝ているから、起こさないようにもう少し小さい声で!』
『それに一緒に行くためには、色々と準備が必要でしょ!お父さんが乗る車椅子とか杖とか、しっかり準備しないと逆に大変になるよ』
その表情は、以前の彼からは想像もできないほど、温かく、幸せに満ち溢れていた。
その姿を見て、先ほどまで凝り固まっていた僕の体は弛緩した。そして、確信した。ジェイコブさんの家族なら、これからどんな困難が待ち受けていようとも、きっと乗り越えていける。なぜなら彼らには、互いを支え合う、強い絆がある。
「よし、みんな、帰ろう!」
僕は、晴れやかな気持ちで、みんなに声をかけた。
「ええ!見るだけでよかったの?シン、ジェイコブさんと話した?」
クレアが、驚いたように尋ねる。
「いいんだよ。もう十分ジェイコブさんの様子は見れたから、さあ、行くよ!」
僕はそう、みんなを促し、病院を後にした。心の中は、温かいもので満たされていた。ジェイコブさんの家族の姿、そしてリアンの言葉が、僕の未来への不安を、確かな希望へと変えてくれたのだ。
病院の自動ドアを抜けると、春の名残をわずかにとどめる、ひんやりとした夜気が肌を撫でた。見上げれば、茜色の残照が残る西の空には、一番星が静かに瞬き始めている。その小さな光は、まるで僕の未来を照らしてくれているかのようだった。未来は分からない。けれど僕の未来も、そして彼らのこれからの生活も、出てきたばかりのあの星のように、輝きに満ちたものであってほしい——そう心の中で願いながら、僕は家路に向かった。足取りは、来た時よりも少し軽やかになった気がした。
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