表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/152

第10話 意図せぬ来客④

 

 バイクを家の横にある車庫に停め、僕らはエヴァンさんに帰宅を報告しようと玄関へ向かう。すると、珍しいことにエアリアさんが玄関前で耳をそばだて、中の様子をうかがっているのが見えた。しばらくして僕らに気づくと、彼女は人差し指を口元に当て、「静かに」と合図する。


 ——一体何事だろうか?


 僕らもエアリアさんに倣い、壁に耳を寄せ、中の様子をうかがった。エヴァンさんの家は、元々倉庫だったため壁が薄く、中の会話は意外なほどはっきりと聞こえてくる。中からは、エヴァンさんの声と、二人の聞き覚えのない男性の声。彼らは、何やら真剣な口調で話し合っているようだった。


「なんで……なんで、あんたがこんなところにいるんだ……?」


 エヴァンさんが問いただすと、聞き覚えのない優しく深い男性の声が聞こえる。


「我々は今、衡平党の一員として、ここに調査に来ているんだよ、エヴァン。各地を調査してどのような人、文化、教育、歴史、産業構造、人々の収入源さまざまな実態を調査して、今後の我々の政党が進むべき指針を探すために活動している。今、我々はレガリスのイオニア県を調査していて、ちょうどよかったからちょっと知り合いの顔を拝見しようと思ってね。私の右腕のアレンとともに来ているわけだよ」


 ——衡平党……!


 その名前を僕は知っていた。最近話題の(ヘルズ)・ゲートの事件を解決してしまったその件で世間では大きな話題になっていたのだ。今すぐその真相を突き止めたい——頭の中がその思いでいっぱいになり、僕は衝動的に中へ踏み出そうとした。その時だった、前に振り出したその腕を、エアリアさんが掴んだ。彼女は無言で首を横に振る。その目は、僕の衝動を押し殺すような強い光を宿していた。僕はその視線に、はっと我に返り、改めで状況を冷静に整理しようとした。その時、傍にいたライアンが、大きく目を見開いてドアの向こうを凝視していた。 


「なんで、ライアンはそんなに目を見開いてるんだ?」


「だって、今話題の衡平党だぞ!一部の地域じゃあ支持が広がっとるらしい。本当にこの暗い世界を救ってくれる存在なんじゃねえかって。」


 ——今日、一番の大きな話題だったのに、今まで会話に出なかったとは……。


 少々の疑問がせり上がるが、それよりも確かにそうなるだろうと思う方が乗り上げる。本来、人々の命を守るはずのアメリア軍が出来なかった問題解決を、たった一地方政党が成し遂げてしまったのだ。この事実に、僕は悪い予感しか感じられなかった。

 するとエアリアさんが意を決したようにドアを開け、開口一番に言った。僕らも彼女の突然の行動に驚きつつも、勢いに任せ、ぞろぞろと後をついていく。


「久しぶりね、ハイン……いや今度はヨシュアだったかしら」


 入室した瞬間、異様な威圧感と冷気が空間を圧迫し僕らに襲い掛かる。

 そこに立っていたのは、闇夜に溶け込むような藤色のコートを羽織り、公的な場で通用するほど格式高い装丁のグレーのボディースーツを身につけた二人組だった。

 一人は金髪を束ねた背の高い男、もう一人は、銀髪の自然なツーブロックが印象的な青年。彼らは洗練された容姿を持ちながら、どこか非人間的で、不気味な威圧感が漂っている。 そして、僕の目に最も強く飛び込んできたのは、金髪の男の首にはめられたチョーカー、エアリアさんのそれと全く同じデザインの精巧なものだった。しかし、そんな僕の心中など意に介さず、ヨシュアと呼ばれた人物。その男はエアリアさんを見ると、寛大に言葉をかけた。


「いやー久しぶりだな、エアリア。私たちにとっての現実ではいつぶりだろうか?アメリア軍時代以来か?」男はすました顔で優しく答える。


「あなたこそ、一体ここに何の用なの?」エアリアさんも訝しそうに答える。


「君たちはさっきからそこで盗み聞きしているのだから、少しは予想がつくだろう?我々は政治団体として、今レガリス共和国家を調査中だ。そしてそのついでに、知り合いがいるってことでここに立ち寄った、ただそれだけのことさ」


「そんなこと私はとっくに理解している。それより、今回のH・ゲートの件……あなた達が解決したというのは、一体どういうことなの?本当のことなの?」


 ヨシュアは、ふっと笑みをこぼして言った。


「本当のことだよ」冷圧な空気が一瞬で弾けた。


「——概略としては簡単なことだよ。我々衡平党は、アメリア軍では不可能だったあの現象の真実を明らかにし、消失させた。ただそれだけのことを行ったに過ぎないよ」


「消失させた……?おかしいわね。たしか今回のアメリア政府は、あれを自然現象によるものと発表していたはずよ。報告とは全く違うじゃない?」


「軍や政府の発表が常に真実とは限らない。……いや、むしろ真実を隠蔽することの方が多いと言った方が正しいんじゃないのか?」ヨシュアは、皮肉めいた笑みを浮かべた。

「——エアリアも、軍に所属していた頃、そういう経験を何度もした経験があるんじゃないか?」


 エアリさんは、ヨシュアの言葉に何も言い返せず歯ぎしりをするように顔を一瞬ゆがめる。ただ、事実を理解しようとしたのか平素な顔になると、少し考え込むように沈黙した後、再び口を開く。


「そうでしょうね……それで、あなた達の本当の目的は何なの?一体今度はなに?今は何をあなた達はしようとしているの?」


「今度、我々が何をしようとしているか、か……。それは今回ももちろん、この世界をいままで以上により良い世界に変化させることだよ」


「より良い世界……?あなたの今言う『公平な世界』が、私たちが見てきたあの結末に繋がらないという保証は、どこにあるの? あなたも知っているでしょう。あの世界では、その選択でどれほど多くの悲劇を起こさせたかを」


「これからの保証など、この宇宙のどこにも存在しないさ、そのことも既に理解しているだろう元科学者ならば、この瞬間でさえも世界は刻一刻と変わっていることを。だが、あの結末は、私たちが選ばなかった無為の先に確定していた超越的な結果だ。今回、私がこの道を選ぶのは、ただ、私が望んだからにすぎないんだよ」


「本当に……あなたはそれでいいの……」


「ああ、もう既に覚悟は決めてある」


 ヨシュアはそう力強く宣言する。その瞳には、揺るぎない信念が宿っているように見えた。


「「……」」


 陰鬱かつ硬質な沈黙が僕らの間に漂う。しばらくの間僕らはこの空気感をどう超克しようか逡巡していたが、エアリアさんの硬質な口調が空気を抜いた。


「け、けれど、あなたはあの“カオス”の存在だけは、私たちの計算も予測も覆す、唯一の特異点だと知っているはずよ。あなたが今選んだ道は、もしかしたら……その特異点を無視した結果に過ぎない!私はその“カオス”を信じている。だから……まだ私はあきらめられない」


「確かに……あの特異点ノードは時として、この世界全体を破壊する瑕疵にもなり得る。だが、私はもう、こんな不確定な希望達に全て賭けることには疲れたんだ。エアリア。私たちは既にすべての苦を知っている。もう、叫んでも、逃げても、殴っても、人を殺しても、足掻いても、自死しても、泣いても……。それらすべての行動に対する感覚はほぼ同値、もうすでに私たちは“現象”と化してしまっている。だから、今回、私は私の望み通りにやらせてもらうだけなんだよ」


「そ、そうね……そのことは私もわかってるわ」エアリアさんの顔に、薄暗い影が落ちた。


「だが、この世界の根本的な定理により、確定的なことは私たちにも理解できない。概略の事実しか分からないだ。望む道を選択するには、今回、我々には認知できる極限の大きな未確定な力が必要だったんだ。この国を動かせるだけのいや、世界を変えることの出来る程度の人材が。そして今回はその準備段階として各地を回り、人々の 暮らし、文化、経済、統治、教育 といった全分野にわたる実態を、フィールドワークを通じて調査しているんだよ——」


 しばらく僕はエアリアさんとヨシュアと呼ばれる人の会話を聞いていた。彼らの会話は少し不思議で哲学的で難解だった。だが彼らは対立している様に見えて合意していて、文脈が飛んでいる様に見えて繋がっている。それまるで彼らが見えない糸で通信し合っているかのようだった。


「ちょっといいか、そのヨシュアって人」


すると、今までうずうずしていたライアンが、たまらずといった様子で口を開いた。傍にいたリアンは『こんなことはやめようと』とどうにかして彼を止めようとした。ヨシュアは、その言葉に初めてライアンらに視線を向けた。


「君は……今回は誰っだったかな?その後ろの人は……誰だったか……」


「俺は……ただのエヴァンさんの知り合いだ。さっきから何言ってるか良く分かんないけんど、ただ、俺もH・ゲートの件には興味がある。どうやってあれを消失させているんだ!あなた方の様なただの小さな政党がそんな大規模なことできるわけないだろ!普通に考えておかしくないか?」


 ライアン、確かにその通りだ。あの巨大な物体は、アメリア軍が総力を挙げても破壊できるような代物ではない。先ほどまで二人の会話に聞き入っていたが、本当は僕もその真実を知りたかった。

 僕は、彼らが返答するであろう回答に、固唾を呑んで待ち望んでいた。すると、傍に立っていた銀髪の青年が静かに前に歩み出て、諭すような口調で語り始めた。


「そのことですが。私が儀式を行うことで、あれを消失させているのです。事前に、あなた方の言うH・ゲートが現れるのを察知し、儀式を執り行うことで消滅させている。ただ、それだけの事です。真実は衡平党のオーチューブチャンネルで我々はライブ配信していましたから、後からアーカイブを確認すればすぐに我々が行っている事実を理解できますよ」


 僕は心の中で、開いた口が塞がらなかった。


 ——儀式だと⁉馬鹿な!そんなこと、あり得るはずがない!


 二〇〇〇年以上前のオカルトめいた異端者のような存在など、この世界では信じられていないはずだ。この世界は先導者エリオスが教える科学知識に基づいて動いているはずなのに、一体なぜ?――僕の心の激しい動揺とは対照的に、あまりにも突飛なことを語った銀髪の青年は、この状況を冷静に見つめている。いや、口元に自信ありげな笑みさえ浮かべているようにも見える。その精悍な顔立ちと堂々とした佇まいは、しばらく僕の目に深く焼き付いていた。


「詳しい話は、また後日改めてさせてもらおう。我々はまだ調査が残っていてね、もしかしたら君たちのことも調査しに行くかもしれない。その時は、その時でよろしく頼みますよ」


 ヨシュアはそう言って話を切り上げ、外へ向かおうとした。しかし、エアリアは何か言いたげに少し下を向き、覚悟を決めたように顔を上げた。


「待って、ハイン……いや、ヨシュア!この結末は、まだ私は受け入れられない。もう少し私たちだけで話をするのはどうかな。それでもまだはっきりとしたわけじゃないし……」


「エアリア!」


 ヨシュアはエアリアさんをけん制した。

 続いて彼は静かに、しかし有無を言わさぬ強い眼差しでエアリアを見つめ、言葉を重ねる。


「私たちはもう、それぞれの決断を十分に分かり合っている。これは仕方がない事、そうだろう? エアリア。これ以上、俺たちは言葉にする必要もないはずだ」


「……」


 そう言うと、ヨシュアは再びドアの方へ向き直った。彼の言葉を受け、エアリアさんは言葉を失い、何も言えずに唇を噛み締めていた。


「今日はもう用はない。我々も一日中、長時間の調査で疲れている。……またの機会があればよろしくたのむ。さあ行くぞ、アレン」


「わかりました。ヨシュアさん」


 そう言い残すと、衡平党の面々は躊躇なく家の外へと出て行った。残された僕たちはただ呆然と彼らの背中を見て、立ち尽くすしかなかった。


「面白い!」「続きを読みたい!」と感じていただけたら、ぜひブックマーク、そして下の★5評価をお願いします。 皆さんの応援が、今後の執筆の大きな励みになります。

日にちが開いた場合も大体0時か20時頃に更新します。


また

https://kakuyomu.jp/works/16818622174814516832 カクヨミもよろしくお願いします。

@jyun_verse 積極的に発言はしませんがXも拡散よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ