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第10話 意図せぬ来客④

 バイクを家の横にある車庫に停め、僕らはエヴァンさんに帰宅を報告しようと玄関へ向かう。すると、珍しいことにエアリアさんが玄関前で耳をそばだて、中の様子をうかがっているのが見えた。しばらくして僕らに気づくと、彼女は人差し指を口元に当て、「静かに」と合図する。


 ——一体何事だろうか?


 僕らもエアリアさんに倣い、壁に耳を寄せ、中の様子をうかがった。エヴァンさんの家は、元々倉庫だったため壁が薄く、中の会話は意外なほどはっきりと聞こえてくる。中からは、エヴァンさんの声と、二人の聞き覚えのない男性の声。彼らは、何やら真剣な口調で話し合っているようだった。


「なんで……なんで、あなたがこんなところにいるんですか?……」


 エヴァンさんが問いただすと、聞き覚えのない優しく深い男性の声が聞こえる。


「我々は今、衡平党の一員として、ここに調査に来ているんだよ、エヴァン。各地を調査してどのような人、文化、教育、歴史、産業構造、人々の収入源さまざまな実態を調査して、今後の我々の政党が進むべき指針を探すために活動している。今、我々はレガリスのイオニア県を調査していて、ちょうどよかったからちょっと知り合いの顔を拝見しようと思ってね。私の右腕のアレンとともに来ているわけだよ」


 ——衡平党……!


 その名前を僕は知っていた。最近話題の(ヘルズ)・ゲートの事件を解決してしまったその件で世間では大きな話題になっていたのだ。今すぐその真相を突き止めたい——頭の中がその思いでいっぱいになり、僕は衝動的に中へ踏み出そうとした。しかし、その腕を、エアリアさんが掴んだ。彼女は無言で首を横に振る。その目は、僕の衝動を押し殺すような強い光を宿していた。僕は、その視線に、はっと我に返る。その時、傍にいたライアンが、大きく目を見開いてドアの向こうを凝視していた。 


「なんで、ライアンはそんなに目を見開いてるんだ?」


「だって、今話題の衡平党だぞ!一部の地域じゃあ支持が広がっとるらしい。本当にこの世界を救ってくれる存在なんじゃねえかって」


 ——今日、一番の大きな話題だったのに、今まで会話に出なかったとは……。


 いや、それよりも確かにそうなるだろう。人々の命を守るはずのアメリア軍が出来なかったことを、たった一地方政党が成し遂げてしまったのだ。この事実に、僕は悪い予感しか感じられなかった。


 するとエアリアさんが意を決したようにドアを開け、開口一番に言った。そして僕らもぞろぞろと彼女の後についていく。


「久しぶりね、ハイン……いや今はヨシュアだったかしら」


 そこにいたのは、マントをかぶり体にフィットした。グレーがメインカラーのボディースーツを着た二人。後ろで髪を束ねた金髪の背の高い美男と、銀髪で少し長めのツーブロックの美青年だった。何よりもまず、金髪の美男の首に、エアリアさんのものと同じ精巧な作りのチョーカーがはめられているのが、僕の目を引いた。そんな僕の心中など意に介さず、ヨシュアと呼ばれた人物は、エアリアを見ると、寛大に言葉をかけた。


「いや、久しぶりだな、エアリア。いつぶりだろうか?アメリア軍時代以来か?」男はすました顔で優しく答える。


「あなたこそ、一体ここに何の用なの?」エアリアも訝しそうに答える。


「君たちはさっきからそこで盗み聞きしているのだから、少しは予想がつくだろう?我々は政治団体として、今レガリス共和国家を調査中だ。そしてそのついでに、知り合いがいるここに立ち寄っただけのことさ」


「そんなことは分かってる。それより、H・ゲートの件……あなた達が解決したというのは、一体どういうことなの?」


 ヨシュアは、ふっと笑みをこぼした。


「簡単なことだ。我々衡平党は、あの現象の真実を明らかにし、消失させた。ただそれだけのことだよ」


「消失させた……? アメリア政府は、あれを自然現象によるものと発表していたはずよ」


「軍や政府の発表が常に真実とは限らない。……いや、むしろ真実を隠蔽することの方が多いと言った方が正しいんじゃないのか?」


 ヨシュアは、皮肉めいた笑みを浮かべた。


「エアリアも、軍にいた頃には、そういう経験を何度もしただろう?」


 エアリアは、ヨシュアの言葉に何も言い返せず歯ぎしりをするように顔を一瞬ゆがめるが冷静になり少し考え込むように沈黙した後、口を開いた。


「それで、あなた達の本当の目的は何なの?何をしようとしているの?」


「我々が何をしようとしているか、か。それはもちろん、この世界をより良い場所にすることだよ」


「より良い場所……?」


「ああ。不公平と不正義に満ちたこの世界を、真に公平で平等な世界へと変える。それが我々衡平党の目的。政党として至極、当たり前のことをしているだけだよ」


 ヨシュアはそう力強く宣言した。その瞳には、揺るぎない信念が宿っているように見えた。


「そのためには、我々には力が必要なんだ。この国を動かせるだけの、な。だからそのために今、準備段階として各地を回り、様々な人々の状況を調査をしているんだよ」


 すると、今までうずうずしていたライアンが、たまらずといった様子で口を開いた。傍にいたリアンは『こんなことはやめようと』彼を止めようとしたが、ヨシュアは、その言葉に初めてライアンに視線を向けた。


「君は……?」


「俺は……ただのエヴァンさんの知り合いだ。けんど、俺もH・ゲートの件には興味がある。どうやってあれを消失させているんだ!」


 確かにその通りだ。あの巨大な物体は、アメリア軍が総力を挙げても破壊できるような代物ではない。僕は彼らの回答に固唾を呑んで聞き入った。すると、傍に立っていた銀髪の青年が静かに前に歩み出て、諭すような口調で言った。


「そのことですが。私が儀式を行うことで、あれを消失させているのです。事前に、あなた方の言うH・ゲートが現れるのを察知し、儀式を執り行うことで消滅させている。ただ、それだけの事です。真実は衡平党のオーチューブチャンネルで我々はライブ配信していましたから、後からアーカイブを確認すればすぐに分かりますよ」


 僕は心の中で、開いた口が塞がらなかった。


 ——儀式だと?馬鹿な!そんなこと、あり得るはずがない!


 二〇〇〇年以上前のオカルトめいた異端者のような存在など、この世界では信じられていないはずだ。この世界は先導者エリオスが教える科学知識に基づいて動いているはずなのに、一体なぜ?――僕の心の激しい動揺とは対照的に、あまりにも突飛なことを語った銀髪の青年は、この状況を冷静に見つめ、微かに口元に自信ありげな笑みを浮かべているようにも見えた。その精悍な顔立ちと堂々とした佇まいは、僕の目に深く焼き付いた。


「詳しい話は、また後日改めてさせてもらおう。我々はまだ調査が残っていてね、もしかしたら君たちのことも調査しに行くかもしれない。その時は、その時でよろしく頼むよ」


 ヨシュアはそう言って話を切り上げ、外へ向かおうとした。しかし、エアリアは何か言いたげに少し下を向き、覚悟を決めたように顔を上げた。


「待って、ハイン……いや、ヨシュア!まだ……」


「エアリア」


 ヨシュアは静かに、しかし有無を言わさぬ強い眼差しでエアリアを見つめ、言葉を重ねた。


「私たちはもう、十分に分かり合っている。仕方がない事、そうだろう? これ以上、言葉にする必要もないはずだ」


「……。」


 そう言うと、ヨシュアは再びドアの方へ向き直った。その言葉を受け、エアリアは言葉を失い、何も言えずに唇を噛み締めてたようだった。


「今日はもう用はない。我々も一日中長い調査で疲れている。……また機械があればよろしく。行くぞ、アレン」

 そう言い残すと、衡平党の面々は躊躇なく家の外へと出て行った。残された僕たちは、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。



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日にちが開いた場合も大体0時か20時頃に更新します。


また

https://kakuyomu.jp/works/16818622174814516832 カクヨミもよろしくお願いします。

@jyun_verse 積極的に発言はしませんがXも拡散よろしくお願いします。

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