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第8話 クレアの助言③

 D.C.2248年 7年前  シン 小学5年生の時


「私たちの国はかつて、異次元の少子化による供給不足によるコストプッシュインフレの悪化、経済発展が後退し、インフラの悪化、犯罪率や自殺率の上昇など、様々な問題が副次的に発生しました。しかし、あることをきっかけに経済は上向きになりました。アメリア政府はこの異次元の少子化対策として、どのような対策を講じたのでしょうか? 知っている人はいますか?」


 昼下がりの平日、外から差し込む日光が埃の粒子をきらめかせ、教室には和やかな空気に満ちていた。女性教師が電子黒板に指を向け、僕たち生徒に呼びかける。すると、クラスの一人がすっと手を挙げた。


「どうぞ、ケン」


 先生に指名されて立ち上がったのは、ダークブラウンの天然パーマの少年。ケンだった。彼の髪は窓からの光を浴びて柔らかく揺れている。


「はい。大きな変化をもたらした対策の一つとして、一夫多妻制度が導入されたことです。一定額を国に納めることができれば、男性は二人目、さらには三人目、四人目と結婚することができるという制度です。ほかにもさまざまな法改正や制度改正がなされましたが、この制度導入後、数年で一人当たりの生涯出生率が二以上となり、徐々に少子化問題は解決されました」


「お~」


 完璧な回答に、周囲の生徒からは感嘆の声が上がる。


「その通りです、それも一つの答えです。ケン。一夫多妻制度の導入で、我が国の出生率は上がり、数十年かけて経済はプラスに成長し続けることができました。最初は倫理的に問題があるのではないかと懸念されましたが、富裕層を中心に法律立案の流れが生まれ、結果的に多くの国民の支持を得て可決されました。さて、今日の授業は以上です。来週は、教科書p一五五ページの『これからの社会制度について』という単元を学習しますので、該当ページにブックマークをつけて予習しておいてください。それでは日直、挨拶をお願いします」


「起立、ありがとうございました」


「「ありがとうございました」」全員が日直の号令に合わせて返答した。


「休み時間を挟んで、次の時間は投資について学びます。準備をしてから教室移動しましょう」


 女性教師はそう生徒たちに言うと、教室からぞろぞろと出て行った。僕はクラスメイトたちが校庭へ駆け出していくのを横目に、僕は机からフレモを取り出し勉強に取り掛かった。


 小学生の頃、僕には友達があまりいなかった。確かに友達がいないことはさみしかった。けれど将来のことを考えると優先して勉強に励んだ方が賢明だと考えていたからだ。一般家庭に育った僕にとって、親ガチャは決して当たりとは言えなかった。この社会の格差を乗り越えるには、インフルエンサーや有名人になるのも一つの手段。しかし、当時、僕は一番の近道は勉強だと信じていた。有名人は年齢を重ねると、容姿を維持するのが難しい。よって徐々に市場価値は下落する。もちろん超富裕層ならば、高額な費用を払って特別なアンチエイジングカプセルに入り続ければ容姿を維持し、自身の市場価値を維持することは出来る。だが、無条件に知識は違う。年を重ねても、勉強すればするほど身につく。そして、身についた知識は裏切ることはないし腐ることもない。いつか必ず力になる。だから、皆が遊びに興じている間も、僕はひたすら知識を頭に叩き込んでいた。確かに今思えば、それらの行動は僕の内から湧き出るものでなく、ただ社会に適応するための行動だったと思う。しかし、昔。そんな僕の心を高揚させた存在に、五年生のクラス替えをきっかけに出会った。彼の名前はケン。彼の存在が、僕の日常に彩りを与え始めた。


 僕は今、タブレット型に変形したフレモの画面には、小学生高学年には難解な数学の問題が並んでいる。僕は画面を食い入るように見つめ、必死に問題を解いていた。その時、クラスで先ほど発言した少年——ケンが、僕に近づいて来た。そして、僕のフレモを覗き込んだかと思うと、ケンは僕のフレモの画面を指で操作し始めた。


「ちょっと何するの? 僕、今問題解いている最中だから邪魔しないでよ」


「まあ、その画面を見てみな」


 僕は言われた通り画面を見てみる。すると、先ほどまでなかなか解けずにいた問題が、いとも簡単に解かれていた。僕は少し体の力が抜けるような感覚を抱き、それと同時にどこに心の鬱屈をぶつけるべきか分からずケンに投げやりに言う。


「は~、やっぱりケンは本当にすごいよ。さっきの先生からの問題だって、教科書を見てもかなり前の内容なのに覚えているし、僕の今の数学の問題もちょっと見ただけで理解できる。僕は、何をして生きていけばいいのだろうか……」


 ケンは落ち込んだ僕を諭すように、砕けた口調で言った。


「まあ、確かに今の時代、会社員として成り上がっていくのは難しいよね。昔、一夫多妻制度を含め様々な少子化を解決させるための法や制度が作られたことで、富裕層の会社は自分たちの会社を維持するために、たくさんの妻を娶って子供をもうけ、その子供たちで会社の上層部を埋めてるんだもんね。僕たちが生きていくには、一般的には公務員になるか、僕の親みたいに会社員として下働きを続けるしかないよね……」


「噂では、富裕層の子供たちは頭が急激に良くなるような薬を高額な値段をかけて摂取しているらしいし、そんなのずるすぎるよ!」


「まあ、それはしょうがないよ。僕たちは自分たちなりにできることをやって生きていこうよ」


「でもケンはいいよね。君は頭がいいから、彼らを簡単に超えられるかもしれない……」


 ケンは謙遜する。


「いやいやいや、そんなこと無理だよ。彼らには、僕らの何十倍もの養育費が一人にかかっているんだ。それは、一人で僕ら一生分の生活ができるくらいにね」


 僕はその現実に愕然とし、悶絶する。そんな感覚を取り除くため意見を求めた。


「じゃあ、僕たちはどう生きていけばいいんだろうか。これからもっと頭のいい存在が現れて、僕たちの仕事がどんどん奪われるかもしれない。君だってそう、生きていけなくなるかも……」


 そんな僕に、ケンは上を向き、アドバイスを送るように言った。


「大丈夫だよ。生物的には人間なんて、食べていけるだけのお金さえあれば、何とか生きていけるさ。でも、僕たちがこれから社会で生きていくためには、何かワクワクすることをすることが、これから生きていく上で大事なんだと思うよ」


 それでも体から力が抜ける。


「そんなもの、どこにあるんだよ。僕は今、君に負けている時点で、もう無に等しいよ」

 そんな様子を見てケンは僕を励ますように言う。


「そんなことないさ。あれを見てごらん!」


 するとケンは教室の後ろに飾ってある、昨日皆が図工の時間に描いたコップの絵を指差し言った。みんなの絵と見比べると確かに、僕の絵だけ、皆の絵よりも立体的で、対象物を精密なタッチで描いている。そんな気はした。僕はもう一度それを見ようと意識を集中させた瞬間、僕の全身を何か大きな火を灯すためのプラズマが走った。


「それだったら、ケンは何かあるの? 僕とは違って?」


 ケンは首を少し傾げ、にこりと笑って言った。


「僕がワクワクすること? 知りたい?」


「うん、知りたい! 早く教えてよ!」


「シン、慌てない、慌てない。それじゃあ、放課後僕の家に連れて行ってあげるよ。楽しみにしてて」


 僕は彼の言葉に少しの期待を抱き、残りの時間を過ごした。





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日にちが開いた場合も大体0時か20時頃に更新します。


また

https://kakuyomu.jp/works/16818622174814516832 カクヨミもよろしくお願いします。

@jyun_verse 積極的に発言はしませんがXも拡散よろしくお願いします。

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