第6話 エヴァンさんの農地にて③
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会場の外の廊下では、イリアとくすんだ金髪の男性が一人、緑髪の女性が一人、固唾をのんでジャンが出てくるのを待っていた。
男性の名はムル。褪せた金髪のミディアムヘアで、楕円形ながら鼻筋の通った顔立ちが知的な印象を与えていた。彼は腕を組み、ジャンが来るのが遅いことに苛立っているのか、指先を何度も上下させ、足踏みをしていた。
もう一人の女性の名はミハイロワ。生き生きとしたミディアムストレートの神秘的な緑髪と緑目、白い肌にフェミニンで柔らかな明るい顔立ちの彼女はイリアにくっつくようにして、忙しなく体を揺らしている様子だった。
彼らは皆、シンの士官学校時代の勉強仲間だった。シンが行方不明になってから、彼の安否を心配し、日夜ジャンを含め四人で独自に情報を集めていたが、これという成果はなかった。そのため、今回の会議で、彼らの中で階級の高いジャンがシンの情報について探るべく参加していた。
しばらくしてジャンが会議室から現れると、彼らは矢継ぎ早に質問を浴びせ始めた。
「シンの行方はどうなったの……?」と、子猫のような大きな瞳を伏せがちに、イリアが不安げに問いかけた。
隣に立つ緑髪の女性、ミハイロワが、イリアの背中を軽く叩いて促す。「そうよ、イリア!もっとはっきり聞かないと!今、シンはどこにいるの!何か会議で分かったことあった?ジャン」彼女の声は、強い心配の色に加えて、焦燥と苛立ちが混じり合っていた。一方で開口一番に言い攻められたジャンはどう返そうか言葉を選んでいる様子だった。そんな彼らの様子と見てムルは、心配そうな二人を冷めた目で見ながら、どこか投げやりな口調で言った。
「二人とも、そんなにジャンを問い詰めるなよ。今、どう返そうか困っているだろ。以前から発表されているように行方不明になった約五〇機のうち、四八機はシグナルロストだけど、二機は文字通り行方不明なんだ。その二機の中にシンが含まれているんだから、まだ希望はあるだろ、今ここでじたばたしたって何の解決にもなりゃしないよ」すると、その言葉を聞いてミハイロワの体が一直線にムルに向った。
「あなたのそういう人に無愛想でなところが嫌なのよ。シンのご両親からも、私たちのところに心配のご連絡が来ているのよ。もっとシンのことを心配しなさいよ。同じ試験を乗り越えるために、苦楽を共にした仲間じゃない!」
「でも……あいつは試験に落ちただろ。俺たちとは今は階級が四つも五つも違うんだぜ。キャリア組じゃないあいつはこれから関わる機会も少なくなるし……もういいんじゃないか。それにジャンなんて、俺たちと違って既に二、三個階級が上じゃないか。もう少しで司令官になって、戦場に出る必要もなくなるんだぞ……いいよな……」
「そういう自分の願望は今は置いておく!大切な仲間の安否を心配することが普通最優先でしょ!私たち今までここまで一緒に頑張ってきた仲じゃない……。それに、あなただってシンにアドバイスを求めていたことがあったでしょ。お互い様よ。シンはただ運が悪かっただけ!」
「……そう、だけどさ」
「ムルのわからずや!もういいよ!」
「何だよもう……めんどくさいな……ふん、俺は、物事をそうやって感情的に捉える女は苦手なんだよな……」
「二人とも、喧嘩はやめてくれシンのことは後でまだ室内にいるエリオットさんに直接聞くから、今は少し落ち着いていてもうしばし待っていてくれ」
ジャンは二人の言い争いを静かに制するように、低い声で言うが、二人の空気感は依然改善せずお互いにけん制し合い、イリアはその様子を心配そうに見守っていた。
その直後、大会議室の扉が開き、エリオットが何か深く考え込んでいる様子で出てきた。ジャン彼の姿を確認すると待ち構えていたかのように、エリオットの前に進み出て、恭しく頭を下げた。
「あの、I.F.D.O.総長補佐のエリオットさんでしょうか。こんにちは。今回の事案について、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「何でしょうか。しかし、私は皆さんとさほど年齢も変わらないので、もう少し気楽に話していただいても構いませんよ」エリオットは眼鏡をクイッと引き上げ穏やかな笑みを作り上げた。
そう言われたジャンは、少し砕けた口調になった。まるで親しい友人に懇願するように、彼は言った。
「それじゃあ……。先日の消失事件の件、もう少し詳しく聞かせてくれないか。その消失した中に僕らの士官学校時代の友達がいるはずなんだよ。名前はシン、本名はシン・ヨハン・シュタイナーっていうんだけど……何か知っている情報があれば何でもいい、あったら俺らに教えてくれないか」
——シン、シン・ヨハン・シュタイナー……。
エリオットはその名前に聞き覚えがあった。それは、彼自身が密かに注目していた、不可解な機態データを記録した青年の名前だった。彼はさりげなく眼鏡の位置を直し、一瞬考え込んだ後、ジャンに向き直った。
「皆様のご期待に沿えず、申し訳ございません。私自身、まだ分かっていないことが多く、皆さんに十分な情報をお伝えすることができずに心苦しく思っております。しかし、彼のことは私も少々気になっており、注目しているのです。私も近いうちに現地へ赴き、彼を捜索したいと考えております。丁度、私自身も組織の一員として、現地で確認しなければならない事柄がありますので」 そう言うと、エリオットは踵を返し、足早にその場を後にした。
——是非、なぜこんなことになっているのかを、この目で確かめなければ。ウィンさんの言った言葉、「真なる存在」とは一体何なのか、その手がかりを掴めるかもしれない……。
そう考えながら、エリオットは廊下の奥へと消えていった。一方のジャンはエリオットの背中を食い入るように見つめ、固く拳を握りしめた。ミハイロワとムルも、複雑な表情を浮かべ、その場に立ち尽くしていた。
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