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第5話 空から堕ちた先で⑤

 翌日  昇恒5時00分  天気:晴れ 


 昨晩は今日のことに備えて早めに床についたため、まだ夜明け前の四時、僕は目を覚ました。クレアから借りた服はほとんどパジャマのような格好だった。この家には大人の男性がおらず、子供と女性しかいないため、僕に合うサイズの服がないのは仕方のないことだ。そのことは気にも留めず僕は借りたベッドの周りを軽く整頓し、階段を下りる。まだ全身の関節や筋肉には鈍い痛みが残っていたが、昨日の吐き気を感じた時と比べれば、幾分か楽に動けるようになっていた。玄関のドアを開けると、早朝の刺すような冷気の中、エアリアさんがすでに車の前で待っていた。彼女は僕に気づくと、


「はい、これは返すわ、壊れてはいなかったから、綺麗にしただけでそのままの状態よ」


 そう言って彼女は僕がここに来る際に着ていたASFアーマーを手渡してくれた。


「ありがとうございます」


「さあ、車に乗ってさっそく行きましょう」


 アーマーを抱えたまま車に乗り込むと、車は発進。ひたすら森の中を走り続けた。来た時には気づかなかったが、遠くに聳え立つ木々の間から大きな湖が見え、朝焼けが湖面に反射して、どこか神秘的な光景を作り出していた。これから先のことは僕には分からない。けれど、これはこれからの何か僕にとっての糸口になる、そんな些細な希望を湧かせてくれるそんな気さえこの風景から何かを感じた。

 車はしばらく道なりに進み、エアリアさんはかなりの時間運転を続けていた。朝早くから迷惑をかけていることを申し訳なく思いつつ、僕はふと、家で留守番している子供たちのことが気になった。彼らは、エアリアさんの手料理がなければ、どうやって生活するのだろうか、少々疑問だった。


「——あの、子供たちはエアリアさんがいなくて大丈夫なんですか?」


 すると、エアリアさんは僕に微笑みながら答えた。


「ええ、大丈夫よ。特にクレアはよく私の手伝いをしてくれるから、料理も出来るし、あの子たちだけでもきっと問題なくやっていけるわ」


 ——子供でも……料理ができるのか……。


「そうなんですね、わかりました……」 僕は理解したような曖昧な返事を返した。


 再びしばらく進むと森が途切れ、いっぱいに広大な農地が広がっていた。鼻腔をツンと刺激する、独特の農薬の匂いがあたりに満ちている。東の空が橙色に染まり、地平線から朝日が顔を出す。頭上には、作物の状態を常時監視していると思われる、巨大な農業用ドローンが、四つの青い推進輪を淡く発光させながら、規則的に旋回している。そして、広大な農地の合間には、何百メートルはあろうかという、巨大な円柱状の施設が所々に聳え立っていた。思わず僕はステラリンクの視覚拡張機能を使うと、巨大なガラス瓶を逆さにしたような透明な外壁の中に、鮮やかな緑色の作物が段々にぎっしりと茂り、様々な作物が大切に栽培されているのが見えた。僕はこれまでアメリア連邦にいたため、空を覆い隠すほど高くそびえ立つ建造物しか見たことがなかった。だから不思議と、これらの円柱状の建造物はどこか懐かしいと同時に珍しく感じられ、思わずエアリアさんに「あれは何ですか?」と興味本位で尋ねた。


「あれはね、バーティカル・ファームセンターと言って、円柱状の建物の中で様々な食用植物が生産されているのよ」 エアリアさんはそう言って続けた。


  「もし空が曇天だとしても、内部の人工照明で光合成はできるし、温度、湿度、二酸化炭素濃度といった生育環境、植物の栄養状態、水分量、病気の有無なんかも完全に管理されているの。だから、どんな気象状況でもね、年中安定的に……しかも通常よりも早く作物を育てることができるのよ」「そうなんですね……」


 そんな壮観な景色を眺めながら、僕らを乗せた車は巨大な建造物と広大な農地の間を縫うように進んでいく。しばらくして、農業用の道から開けた道路に出た。朝方なのもあってか、道を走るのは農業用トラックや、その後ろをついて行く知能機関搭載の農業用ロボットだけだ。 すると不意にエアリアさんが提案してきた。


「そろそろ……機態が見えてくるはずだけど、現地までこのまま行く? それともここから歩いていく?」僕は、これ以上彼女に迷惑をかけるべきではないと思い、ありがたく、その提案を受け入れることにした。


「——ここまでで結構です……。エアリアさん衣食住の何から何まで本当にありがとうございました……感謝しています」


 エアリアさんは僕の要望を聞き入れ車はゆっくりと停車した。僕はボタンを押して車のドアを開け、外に出ると、エアリアが運転席の窓を開け言った。


「いいのよ、気にしないで。当然のことをしたまでだから。それじゃあ、気をつけてね。体調管理もしっかりと。あと、ステラリンクに連絡先を入れておいたから、困った時とか何か緊急のことがあったら遠慮なく連絡してね。今度来た時はエミュエールハウスの子供たちがあなたをまた歓迎するわよ。それじゃあまたね」


「本当に、ありがとうございました」


 そうやって彼女は手を振り、僕も彼女の思いやりに応えるように軽く手を挙げて見送った。エアリアさんの車が来た方向へと走り去っていくのを見送ってから、僕は彼女から教わった機態があると思われる方向へ歩き出した。

 しばらく周囲に広がる農地をひたすら進むと、ついに眼前に僕の機態らしきものが見えてきた。


 ——!


 しかし、僕はその光景に言葉を失った。機態自体は無事だったものの、着地の衝撃で地面は大きく抉られ、周囲の農地は無残にもこげ茶色の土が露わになっていた。

 さらに僕を驚かせたのは、機態の目の前にすすけた金髪の若い男性がいたことだ。彼は仁王立ちし、腕組みをして口の端を吊り上げ、片足を苛立ち紛れに小刻みに踏み鳴らしていた。まるで待っていましたとばかりに、煙草をくわえたその男性は声を震わせながら言った。


「これ……どうしてくれるんだ……?なあ?」


 僕は目の前の信じられない光景と、男の心の底からの怒りに、ただ乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


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大体20時頃に更新します。


また

https://kakuyomu.jp/works/16818622174814516832 カクヨミもよろしくお願いします。

@jyun_verse 積極的に発言はしませんがXも拡散よろしくお願いします。

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