エピローグ 黎明
ここは首都レガリア中心部。天を貫く高層ビルが立ち並ぶ間、長く続いた喧騒と恐怖の後の静寂に包まれていた。人々は自身の無事を確認するかのように、塵を払うように立ち上がり、一人また一人と、皆が一様に空に描かれた巨大な天使の輪。そしてその間を猛禽類が飛行するような、小さなグライダー機態——それらをまるで崇め奉る様に天を仰ぎ見る。
その重い疲労と、熱気がこもる群衆の中。一人の少年は微動だにせず、静かに空を見上げ、目の前で起きた出来事を心の中でじっくりと噛みしめていた。天空にはまだ薄明かりが残り、夜の深い青色が漂っている。
彼の目には、その光景が、まるで自身の心境を映し出しているかのように映る。長い闇を抜け、微かな光が世界に兆しを見せ始めたばかりのこの瞬間、少年は自分が生き延びたという現実を改めて噛みしめることが出来た。
そして彼の中で感じる、確かなことが二つあった。
一つは、奇跡的に自分が生き延びたという事実。生と死の境を何度も彷徨いながらも、今こうして自分がこの世界に立っていることは、ただの偶然ではなく、何かしらの意味があるのかもしれないということ。
そして、もう一つ、こんなにも暗く、絶望に満ちた世界の中でも、まだ希望があるということ。それは理屈ではなく、彼の胸の奥深くで静かに囁く、本能的な感覚だった。
時刻は朝六時。
長く続いた混迷の夜が終わりを告げ、東の遥か連なる山々の険しい稜線。そこから暁星をかき分け、今まさに恒星ルミナがその姿を現そうとしていた。まだ直接的な強い光はなく、空全体は夜の暗闇から徐々に、しかし確実に明るさを増していた。東の空は、淡いオレンジ色からピンク色、そして紫へと、息をのむような美しいグラデーションを描き始めている。それは、まるで新しい時代の幕開けを告げる壮大な祝福をするかのようだった。
暖かくやわらかな風が世界を揺らぐ中。
少年はゆっくりと地面から立ち上がり、深く息を吸い少し間を開け吐き出すと、東の空、連なる山々の稜線をなぞる様に見つめた。その光景は長く暗い夜を乗り越え、世界を再び照らし始める朝の光が、今まさにその頂から溢れ出ようとしている。まだルミナそのものは見えない。しかし、山肌のシルエットは、背後から迫る光によって次第にその硬質な輪郭を鮮明に浮かび上がらせている。そして、山の稜線のごくわずかな部分から、まるで絵筆で引いたような、鮮烈な緋色から紫紺へと変化する光芒が、空に向かって力強く伸び始めた。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと……。
揺らぎ、滲み、
あふれ出す。
秀麗なクロノスタシス。
だが……。
この新しい夜明けがもたらすものが、果たして絶望なのか、はたまた希望なのかは、まだ彼にも、そしてこの世界に存在する誰にも分からなかった。
つづく
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