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第27話 僕は何処から来て、何処に向かうのか④

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 再び、一面の白い世界。

 だが今回は少し違った。先ほどまでのただ茫洋とした白とは異なり、それは、これまでの僕の行動に影響されたのか、僕の体を中心にまるで風にそよぐカーテンのように脈動し始めていた。

 しかし、僕はそんな事実には構わず、先ほど見た光景の温かい余韻をゆっくりと味わうように、しばらくの間、その場にうずくまっていた。まるで第二の子宮の中にいるような、不思議な暖かさが体を優しく包み込んでいた。


 やがて、何かを思い出したように、はっと顔を上げ、胸のあたりを見つめた。そこには内側から溢れ出すように、淡い光が灯っていた。そんな胸上で浮遊する青い光は、ゆっくりと、まるで生命の設計図が展開されるように、複雑な模様へと姿を変え始める。それは、固く閉ざされた花の蕾が時間をかけて花弁を開き、息をのむほど美しい満開を迎えるように、最初は小さな霧滴だったものが、徐々に同心円状の精緻な六角形の幾何学模様へと変形した。


「……」


 僕は、まるでペンダントのような、その不思議な物体をしばらく見つめる。ふと抑えきれない衝動に駆られ、そっと指先で触れてみた。その瞬間、六角形は眩いばかりに輝きを増し、光の幾何学が法則を書き換えるかのように加速。互いに回転しながらみるみる巨大化していく。そして、六つの無機質なビットに囲まれたゲートが、異質な空間への入り口として、僕の目の前に出現した。


 ——‼


 それは僕がいつも夢の中で見ていた、未知の世界へと続くゲートによく似ていた。しかし、今回は違う。今、目の前にあるのは、単なる夢の中で見た幻影でも、空間が偶然生み出した歪みでもない。紛れもなく、僕自身の内なる力が創り出したものだった。

 そのゲートから溢れ出す、抗えない引力に導かれるように、僕は立ち上がり、一歩踏み出し始めた。

 ゆっくり、ゆっくり……。

 体はアーマーから溢れ出し、まるで風の精霊の様に揺らぐ。

 周囲の揺らぐ世界と一体化していく。

 それでも構わず、僕は歩き続ける。

 ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと。

 だが、途中で止まってしまう。なぜならふと思い出したからだ。過去の夢の中で経験した、決して心地よいとは言えない記憶を。いつも、夢の中で見るそれらは、毒を持つサソリに刺されて息絶えたり、見慣れない獰猛な動物に襲われたり、逃げ場のない酷い災害に巻き込まれたり……決して良い思い出など、ほとんどなかった。

 だが、今は違う。

 エアリアさん、ロミ、クレア、スレイ、ライアン、リアン……たくさんの人が、僕に未来を託してくれたのだ。僕は今まで、大切な場面でいつも逃げてきた。士官学校時代の理不尽ないじめ、アメリア軍でのドッグファイト、そして、コロニーでの出来事。皆を失ったあの時、僕には何もなかったから、何もできなかった……。だが、今は違う。

 僕は皆から贈られていた。

 託されたのだ。

 ゆっくりと、しかし一歩一歩、確かな決意を胸に、僕はゲートへと向かって歩き始めた。すると僕の強い意志と、まだ言葉にできない何かが共鳴し、ゆらぐ空間と共に僕の背中をそっと、しかし力強く後押してくれる。そして、ついに僕は、光り輝くゲートの前に立った。


 ——今なら、きっと行ける。


 昂る思いが僕の底から湧き上がり、全身を熱した。だが、僕はここで再びふと立ち止まる。このままの勢いではあの時、試験の時と同様、冷静さを失い、過去の過ちを繰り返してしまうのではないか。一抹の不安がよぎる。僕は一度大きく深呼吸をし、息を整えた。そして落ち着くため、誰もいなくなった空間を振り返る。


 ——……。


 もちろん、そこにはもう誰もいなかった。けれど、彼らは今僕の中にいる。僕は……一人じゃない——そう思うと、喉の奥から熱さがこみ上げてくる。それらを飲み込み、溜まった空気を誰もいない揺らぐ世界へ吐き出した。


「行ってきます」


 再び前を向き、僕は迷うことなく、混沌とした光の渦の中へ、力強く一歩を踏み出した。すると、僕の体は、まるで透明な水に絵の具がゆっくりと溶け込んでいくような、淡く優しい青白い光に包み込まれる。その光は、僕自身の存在そのものを、空間と共に新たな何かへと変遷させていった。





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