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第27話 僕は何処から来て、何処に向かうのか① 

 僕らはいつも夢を見る……。


 こんな書き出しで始まる物語の話の内容はきっとこうではないだろうか。主人公は夢を見る。でも、それは単なる睡眠中の白昼夢じゃない。夢と現実の境界線は曖昧に溶け合い、夢そのものが物語の進行をかりたてる重要な要素となっている。

 例えば夢は、未来を暗示する預言者の言葉のように、主人公に未来の出来事をちらつかせる。あるいは、過去のトラウマが具現化した悪夢として、心の奥底に隠された傷を抉り出す。時には、夢は未知なる異世界への扉として開き、主人公を僕たちの想像を超えた冒険へと誘う……。


 しかし、現実は違う。


 何かに情熱を傾けても。数値が、社会が、世界が、意識がそれを否定する。あらゆるものが定量化、言語化、可視化されるこの世界で、僕らを承認という名の温かさで包み込んでくれる存在は……。

 ——いたのかもしれない。

 だが、もうどこにもいない……。

 いままでの人生は間違っていたのだろうか?

 いままで生きてきてよかったのだろうか?


 ——もう、消えてしまいたいよ……。


 (違うよ……)


 ——誰の声?


 (君は決して一人じゃないよ)


 まるで、僕らから浮き出たように発せられるカタチ。それが僕らを天井へと引き上げてくれる何か。

 全く持って分からない。思わず僕らは問い掛ける。


 ——誰なの……?誰の声なの……?


 (僕だよ、君らのカタチの中のカタチ)


 ——……?


 彼が誰なのか、僕らはまだはっきりとしない。僕らは再び、問い掛けた。


 ——ごめん。まったく分からないよ……もっと詳しく教えてくれないか。


 すると彼は少し思考していたのか、刹那の時間が流れる。そして、僕らに情報を伝えた。


(そうか……少し分からないか……分かった、デコヒーレンス(分離)するよ)


 ——⁉


 思考する暇はない。その瞬間、僕らの意識は滑らかにデコヒーレンスした。


 (久しぶり、ηθικ元気にしてた?)


 (う、う~ん。ここは……どこ……)


 しばらく俺の思考はもつれていた。しかし、やっと創発する。


(あ、君か……そちらこそβψδε久しぶりだね。俺……生きているの?今の状況どういうこと?全く分からないよ……)


(うーん、今の状況を、君に説明するのはちょっと難しいよ。でも、簡単に言うと、君が目指していたことがようやく叶うってことかな?)


(それって……あの約束事⁉ そんなことって僕らみたいな……“弱い”人間じゃ無理じゃ……)


(違うよ、ついに“それ”が叶うんだよ! 何故って……あの時、君が、僕らが“あの”力に導かれるまま突き進んだからさ)


(ごめん、βψδε。唐突だけど……その……“あの”力て何?)


(う~ん、僕にもはっきり言って分からないよ。それについてはたぶん、彼らが教えてくれるよ)


(そ、そうなんだ……。ごめんね、ごめんね……、未だに俺、今の状況理解できていなくて……でも……俺、ようやく願いが叶ったんだ……よかった……よかった。本当に良かった。うれしい。うれしい……、うれしいよ)体から暖かいものが溢れて、溢れて止まらない。


(それは良かった……。君がこんなに喜んでくれて……僕もこんなにうれしいことはないよ。こちらこそ、とてもいい思いをさせてくれて、ありがとう)


(ううん、違うよ。ここまでこれたのも君のおかげだよ。こちらこそありがとう)


 しばらく僕たちとの間に滑らかな空気が流れる。



(それじゃあ、落ち着いたところで、これから再び君と僕とでコヒーレンス(合体)するけれど大丈夫?ηθικ行ける?)


(うん、俺は大丈夫だよ。俺……ここに君と来れたこと、とっても嬉しかった。だから……君とならもう一度……困難を乗り越えて行けるよ!)


(じゃあ、一緒に行こうか)


(うん、行こう!)


 そうして僕らはコヒーレンスし始めた。



 しばらくの間、ばらばらだった状態が滑らかになっていく。

 ゆっくり、ゆっくりと……。

 このままなくなってしまうのか。無になってしまうのか。

 無と有がほぐれ合ったり、もつれ合ったりして、気持ちがとても悪かったり良かったり。

 はっきりとしない時間が永遠の様に感じられた。


 すると、そんな僕らを思ってくれたのか、僕らのカタチを僕らのカタチたちが包み込んでくれる。


(ほら、シン。起きなよ。前を向きなよ!君は決して一人じゃない。そこにいる原理躰達が、君のこと、とても気になっているんだよ!)


 そう言って僕らは再び僕になった。

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