第25話 光の人③
どれほどの刻が流れたのだろう。
この世界で、私たち二人で過ごした時間は。もう、私には正確に測ることなんてできなかった。宇宙が誕生し、そしていつか終焉する……。そして誕生し……また終焉する。そんな輪廻さえも超えてしまうような、途方もない時間だったのかもしれない。
それほど永い刻を、私たちは共に過ごしてきたのだ。これだけ長く寄り添えば、互いのすべてを理解し合え、私たちは一心同体の存在に……そう思うのが普通かもしれない。けれど、私たちは、それでも互いの心を完全に読み解くことはできなかった。理不尽な現実に直面するたび些細なことで言い争い、仲直りしては、またぶつかり合った。時には、拳を交えることだってあった。
それでも、私たちは迫りくる混沌の渦に、二人で立ち向かった。私たちの胸にあったのは、揺るがぬ意思と、消えない熱意。そして、友情と……愛と呼ぶべき、確かな秩序だけを頼りに。
そうやって無限にも思える刻を経て、私たちは、ようやく一つの答えに辿り着いた。この世界が進むべき、ただ一つの道筋を。それはきっと、未来を生きる彼らにとって、あまりにも過酷な茨の道を強いる選択になるだろう。それでも、私たちはこの道を選んだ。すべてを懸けて……。言葉にしなくても、心の奥底にある覚悟だけは、確かに通じ合っていたのだと思う。完全に理解しあえなくても、その一点においては。
やがて私たちは、時の流れの外へ、あらゆる時間が交差する、あの場所へと再び還ってきた。この特別な場所とも、もうすぐお別れだ。そう思うと、言いようのない寂しさが胸にじんわりと広がっていく。私は、静かに隣に立つセリアさんと向き合った。やがて、セリアさんが静かに口を開いた。
「ここを出れば、あなたと私が一緒に暮らす時間もほとんどなくなるでしょう。そこからは、あなた一人でやっていくのよ、エアリア。いい？」
セリアさんの真剣な眼差しは、これまでの思い出が鮮やかに蘇り、胸を締め付けた。それでも、私たちは自分たちの進むべき道を決めていた。だが、これほどの時間を共にしても、未来が変わる可能性は常にある。拭いきれない不安が胸をよぎり、私は思わず視線を落とした。そんな様子を見かねたのか、レーアが諭すようにさささやく。
「大丈夫。あなたならきっとできるわ。あなたの奥底から湧き上がる何かが、必ずあなたを導いてくれるはずよ」
「セリアさん、それって一体何なの？」私はセリアさんのその言葉が、胸の奥にずしりと響く。
「私もはっきりと説明することはできないわ……。でも、それは何か、生物としてのシステムやこの世の理を超えた、もっと根源的な何かであることは確かよ。私も、はっきりと感じ取ることができた。だからあなたと私は時を超えてこうやって巡り合えたのよ」
詳しいことは分からなかった。けれど、私はセリアさんの言葉と、彼女が言う。不思議な力を信じようとした。じんわりとした温かい気持ちが胸に広がり、もう一人じゃないような、強い安心感に包まれた。私はもう一度、セリアさんの顔をしっかりと見つめた。
「私……今まで……現実に目を背けてきた、逃げてきた……でも、もう私逃げない。私戦う。セリアさんがずっと私のためにしてくれたみたいに。私の望む未来のために！ あの人達の未來のために！いいわよね？」
「うん、そうね」セリアさんはにこりと微笑む。
「私、やってみるよ！セリアさん。これだけの長い時間セリアさんと一緒にいられて……私、本当に幸せだった。こんな幸せなこと、たぶん一生経験することはないと思う！」
彼女はゆっくりと首を振る
「いいえ、あなたのこれからの人生には、きっともっと素晴らしいことがあるはずよ。それは、この世界を見ているだけでは、きっと想像もできないような……何かがね」
「そうなのかな……」私は少し考え込んだ。未来への期待と、セリアさんと離れる寂しさが入り混じり、複雑な感情が胸に渦巻いた。
「ええ、絶対にあるはずよ。これほど長い時間、私たちが世界を見続けてきたとしても、世界は常に変わり続けている。その中で、また新たな出会いもあるかもしれない。そのことに、期待していいんだよ、エアリア」
「うん、わかったよ、セリアさん。ありがとう」ようやく、私は体の底から何か暖かい物がせりあがるのを感じ感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
「じゃあね、エアリア。達者でね！」
「セリアさんも」そう言うと、若いセリアさんはニコリと笑い、それぞれの時間軸へと戻って行った。私たちのかけがえのないこの時間は、私の心に深く刻まれ、永遠に忘れられない、宝物のようなあたたかな記憶となった。
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