第2話 それでもの一歩④
降恒10時6分 場所:シンの自室
晩、点呼が終わり、自室に常夜灯が付く。
僕は今日習ったことを復習しようと、フレモに触れ、今日読み取った資料を読み始めた。淡い橙色の浮遊照明の光が照らされた自分の机上。そこが操縦席だと想像しながら、手のジェスチャーを交え、頭の中で何度もシミュレーションを繰り返していた。
——よし、だいぶ慣れてきた。
これなら二週間後の本格的な訓練にも万全な準備で挑めるはずだ。来週の飛行訓練が終われば、再来週にはドッグファイトの訓練が待っている。僕はその訓練に向けて、さらなるシミュレーションと予習に取り組むことを決め、発見があるごとにフレモのメモ帳に予定を書き込んでいた。
すると、“ピッピッピコン!”と僕のフレモが連続して反応した。どうやらLOINEからメッセージが届いたようだ。既読をつけずに内容を確認しようと、アプリを開いた。そこには数期ぶりに、ジャンの項目に数字の③が表示されていた。
——!
心音のエンジンが点火した。
しばらく画面を見つめ、既読にするかどうか迷う。自然と僕の心臓の鼓動もリズムを刻みだし、耳まで伝わってくる。開いてしまえば、彼に僕の抱える微かな感情さえも伝わってしまうかもしれない。そんな気持ちを知られたくなくて、僕は逡巡していた。だが——
——あ!
抗いがたい衝動に抗えず、僕は画面に触れ、メッセージを開いてしまった。
『シン、最近どう? 元気にしているかな? もし差し支えなければ、今度一緒に食事でもどうかなと思ってね。毎週日曜日の降恒六時に、この場所でみんなで集まって夕食を食べているんだ。もしよかったら、遠慮なく顔を出してくれると嬉しいな』
料理店の場所と、可愛らしい親指を突き立てた絵文字が、文章の最後に添えられていた。
僕は、その文章を何度も読み返したが、湧き上がってくる複雑な感情を呼吸を繰り返すことで必死に抑えつけ、覚悟を決めた。
——僕はもう彼らとは違う……。
団には信頼できる人もいる。僕はこの組織で努力して信頼を勝ち取っていくことが、これからの僕の人生の道であると確信していた。僕は再び資料集に目を通し、頭の中で再度シミュレーションを始めた。だが、何故か頭の中に小さな壁ができたかのように、内容がなかなか入ってこない。より体に染み込ませようと、椅子から離れ、開いたスペースでイメージトレーニングを試み始めた。
そうこうしているうちに夜の十二時近くになり、僕は机から離れてベッドに横たわった。寝る前に、もう一度フレモを見ながら頭の中でシミュレーションを繰り返していたが、意識は既に朦朧とし始めていた。
——よし、今日はここまでにしよう。
トレーニングを終え、ふたたびフレモを見ていた。先ほどのジャンからの連絡が少し気になったが、断ち切る様に邪念を振り払おうと、フレモの電源を切り、ベッドのそばに置いた。しかし、まだ心の片隅に何か残っていた。僕は何かいい気晴らしはないかとふと窓の外を見ると、遠くの景色が目に飛び込んできた。敵の攻撃にも耐えられる堅牢な超高層ビル群の中に、荘厳で巨大な六角柱の建物が、航空障害灯を点滅させながら静かに佇んでいる。僕はしばらくそのアメリア軍の本部の建物を見つめたいた。その堅牢な存在が、自分の居場所はここなのだと、揺らぎかけた心に確信を与え、気持ちを奮い立たせてくれた。そんな気がした。
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