第20話 それぞれの宇宙(そら) 後編 ⑥
24期10日 昇恒3時20分
いつものように僕は夢を見ていた。今回、僕は外に立ち漆黒の宇宙を見上げていた。場所ははっきりとはわからないが夏の夜特有の蒸し暑い空気が肌を包み込む。ただそれだけを感じていた。その静寂を破るように、突如、空は異様な光景へと変貌した。天空を覆い尽くすように、巨大な同心円状の幾何学的な構造物が現れた。そして次の瞬間、淡くも確かな光の柱が形成され、世界を一変させたのだった。
——……⁉
その光景を見た瞬間、脳裏に焼き付いたのは、かつて光に包まれて消えていったジェイコブ、デニー、アルフレッド含めた同じ部隊の隊員達の機躰だった。胸が締め付けられるような不安と、理解を超えたものに対する根源的な恐怖が同時に押し寄せ、僕は強引に夢から引き揚げられた。
「ハッ!」
現実に引き戻された僕はふと体を見る。身体は全身に鳥肌が立ち、信じられないほど汗で濡れていた。夢の残響が僕の意識を支配し、あの異様な感覚が何だったのか理解しようと焦燥した。しかし周りを見て何も起きていない。僕はいつもの夢だと一安心し、改めて息を整えその焦りを振り払おうとした、その時だった。
“バァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン‼”
轟音と共に、家全体を揺るがしながら想像を絶する衝撃波が、金属の壁を巨大な拳で殴りつけたかのように激しく打ちつけた。壁は振動し、建物の輪郭がゆがむ。周囲の空気までもが目に見えるほど震え、その波動は数秒間続いた。
そして、衝撃波が通り過ぎようとした瞬間——。
“ドゥガァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン‼”
息つく間もなく空気を切り裂くような、先ほどの衝撃波を凌駕する轟音が再び襲いかかり、僕は恐怖でしばらく動けなくなった。一体、今度は何が起こったのか? みんなは大丈夫なのか?——そんな心の喧騒の中、外からエヴァンの叫び声が飛んできた。
「シン‼ 早く外へ‼」
エヴァンさんの切羽詰まった声に反応し、僕は一目散に家の外へ飛び出した。そして、目の前に広がる光景を見て、僕は言葉を失った。
——……!
世界が止まった。
夜空には、昼間と錯覚するほどの強烈な巨大な一本の光の柱。それが垂直に世界を破り捨てていたのだ。
——え……あの方向は……まさか⁉
身体が凍りつき、一歩も動けない。一体何が起こっているのか、あまりにも突然の出来事に意識が混乱する。そんな理解できずにいる僕に、エヴァンは震える声で、残酷な現実を突きつけた。
「あそこの方角って、アリエス市じゃないか……?」
その言葉を聞いた瞬間、僕の思考は完全に停止した。戦慄が、背骨を這い上がり、今まで僕を形作ってきたすべて——温かさ、希望、誇り、そういったものが音を立てて崩れ去っていく。世界から色が消え、ただ光の柱が創り出した大気の震えと、エヴァンさんの腕に抱かれたユナのすすり泣く声だけが、冷酷に夏の夜に響き渡っていた。
——みんな……無事なのか?いや……そんなはずはない。この光は、全てを焼き尽くすかのような……。
世界はゆっくりと元の暗黒に遷移していく。体の汗もゆっくりと干上がり、ひありと寒さを感じる。
しかし、僕の瞳の光順応を拒むように、一筋の影法師が視界を埋めていた。
しばしの間、一抹の希望を発芽させようと努力した。しかし、思考の混濁に対する答えは、すでに目の前の光景が残酷なまでに示していた。
ふと、針の様な冷風が体をつつく。
それでも僕は、ただ、現れた凄艶な光景から目をそらすことができなかった。
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