009 【絡命の蛛糸】と【翠玉の誓約】
光るアイテムがジャイアントスパイダーがいた場所に落ちていた。
それを拾い上げる。
細く透明な糸が、幾重にも折り重なってできている。
小さな護符のようなものだった。
光の加減によっては、虹色に輝いて見える。
中心部には、小さな蜘蛛の形をした金属細工が埋め込まれていた。
「【絡命の蛛糸】だ……」
これは俺の予想外だった。
クリア報酬は【光の護符】だと思っていたのだが。
【始まりの洞窟】へ初回挑戦でのクリア。
しかも、今回はセシリーを連れてクリアしたため、通常とは異なる条件でのクリア報酬ということか。
「【絡命の蛛糸】って、何に使うんですか?」
「【光の護符】は知ってるか?」
「はい。戦闘中、致命的な攻撃を受けた際、一度だけ身代わりになって守ってくれるっていう効果ですよね」
「ああ。その通りだ。【光の護符】は一度きりの使い捨てアイテムだ。しかし【絡命の蛛糸】は、戦闘が終わる度に自動的に修復される」
「すごいじゃないですか!」
「ああ。俺も驚いた。こんなすごいアイテムが、初級ダンジョンのクリア報酬だったなんてな……」
これで戦略の幅が広がる。
もしかしたら、このまま死なずにINEFERNOを攻略できるかもしれない。
希望がわいてきた。
「……さあ、帰ろうか」
俺達は洞窟の出口へと向かった。
ボスを倒したことで、雑魚モンスターも弱体化している。
俺たちは無事に洞窟の出口へと辿り着いた。
外の世界では、すっかり日が昇っていた。
眩しい光が俺たちを迎え入れてくれた。
「……綺麗」
アリアが、ぽつりと呟いた。
その瞳には、朝日の輝きが映し出されている。
「ああ、そうだな」
俺も、同じように空を見上げた。
この美しい景色を、仲間たちと無事に見ることができた。
そのことが、何よりも嬉しかった。
「……あ!」
不意にセシリーが声を上げた。
その視線の先には、数人の男たちが立っている。
皆、立派な鎧を身につけ、剣や槍を携えていた。
「セシリー、無事だったか!」
男たちの中からひときわ威厳のある声が響いた。
声の主は集団の中でも一段と立派な鎧を身に着けた、初老の男性だった。
「お父様!」
セシリーは駆け寄り、父親の胸に飛び込んだ。
男はセシリーを優しく抱きしめ、その背中をポンポンと叩く。
「心配したぞ、セシリー。無茶はするなとあれほど……」
「ごめんなさい、お父様。でも、私……どうしても、自分の力を試したくて」
「……まあ、良い。無事に戻ってきてくれた。それだけで十分だ」
男は俺たちの方へ向き直った。
「娘を助けてくれたのは、君たちだな。礼を言う。リンドブルム商会当主、ギルバート・リンドブルムだ」
ギルバートは俺たち一人一人に視線を向けた。
「俺はロキだ」
「アリアと申します」
「キュイ!」
「……こいつはミズタマです」一応紹介しておいた。
ギルバートは満足そうに頷いた。
「ロキ殿。君たちには本当に感謝している。セシリーの命を救ってくれてありがとう」
そう言って、ギルバートは深々と頭を下げた。
「あ、そんなの困ります。頭をあげてください」
アリアは慌てたようすで言った。
「セシリーがいなくなったと聞いて、すぐにギルドへ捜索依頼を出したのだ。緊急クエストとしてな。まさか、君たちがその依頼を達成してくれるとは……」
ギルバートは懐から革袋を取り出した。
袋の口を少し開いて見せてくれた。
中には金貨がぎっしりと詰まっている。
「これはクエストの成功報酬だ。本来ならば、もっと多くの報酬を用意すべきなのだろうが、何分、急なことだったのでな。これしか用意できなかった。すまない」
「いえ、そんな……。十分すぎる報酬です。というか多すぎます」
俺は慌てて手を振った。
こんな大金、受け取れるわけがない。
「いや、遠慮はいらん。君たちは、それだけの働きをしたのだ。それに……」
ギルバートは俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「ロキ殿、君には、特別な才能がある。ぜひ、その力を我がリンドブルム商会のために役立ててほしい」
俺はその台詞をきいたことがなかった。
セシリーを救ったことにより、新たな世界線へ移動したというわけだ。
「今夜、我が家で食事会を開く。ぜひ、君たちを招待したい。もちろん、アリア殿、ミズタマ殿も一緒だ。君たちのような優秀な冒険者と、親睦を深めたい。それに、セシリーも君たちに感謝の気持ちを伝えたいだろう」
ギルバートは優しく微笑んだ。
「……わかりました。お招き、ありがとうございます」
俺はギルバートの申し出を受けることにした。
「それではロキ殿。今夜、改めて迎えの者を寄越す。場所は宿屋で良いかな?」
「はい」
「屋敷で待っておるぞ」
ギルバートはセシリーを連れて馬車に乗り込んだ。
俺たちは馬車が見えなくなるまで、その場で見送った。
「……帰ってこられて、良かったです」
「まったくだ」
俺は手に持っていたギルバートからの報酬を見た。
革袋は、ずっしりと重い。
「これ、二人で一緒に分けるか」
俺はアリアに提案した。
この報酬は、二人で協力して得たものだ。
当然、山分けにするべきだろう。
「いえ、そんな……。私は大丈夫です。ロキさんのおかげで生き残れたわけですから」
「そんなわけないだろ。アリアには本当に助けてもらった。二人で分けよう」
アリアは少し黙っていた。
「……わかりました。いただきます。でも、三分の一で。残りは、ロキさんとミズタマさんで分けてください」
「なるほどな……」
モンスターであるミズタマにも分配する……という体で、俺に渡しているのだ。
ミズタマはモンスターなので、そもそもお金を持てない。
俺に対しての気遣いだ。
ありがたく受け取っておこう……。
「ロキさんは、これからどうされるんですか?」
アリアが尋ねてきた。
「宿を取らないとな……。アリアは?」
「この街に来たときに部屋を借りてます。案内しますね」
アリアの案内で、俺たちは街唯一の宿屋へと向かった。
道の途中、様々な露店が軒を連ねているのが目に入った。
武器や防具、食料品、そして色とりどりの装飾品……。
活気あふれる露店の様子に、俺は自然と足が止まった。
「ちょっと見ていってもいいか?」
「もちろんです。私もショッピング、大好きです。見てるだけでも楽しいですよね」
俺はショッピングがそこまで好きではない。
立ち寄ったのは、ランダムで売っている特別なアイテムがあったりするからだ。
順々に店を見ていく。大したものはない……。
「……ん?」
俺の視線は、ある露店に釘付けになった。
そこには様々なアクセサリーが並べられている。
その中でもひときわ目を引くものがあった。
深緑色の翡翠をあしらった、繊細な細工の指輪だった。
光の加減によって、翡翠の色合いが微妙に変化し、神秘的な輝きを放っている。
「……これは」
俺は、その指輪に見覚えがあった。
ゲーム『ラグナロクの迷宮』に登場するアイテム【翠玉の誓約】だ。
【翠玉の誓約】は、序盤ではほとんど役に立たない、ただの装飾品だ。
しかし、特定の条件を満たすことで、強力な効果を発揮するようになる、いわゆる「大器晩成型」のアイテムだった。
「すまない、この指輪を見せてもらっても良いか?」
店主はにこやかな笑顔で指輪を手に取り、俺に差し出した。
「お客さん、見る目があるね。これは、上質な翡翠を使った、一点物の指輪だよ。婚約指輪におすすめだね」
さきほど手に入れた報酬の八割を使い切ることになるが……。
それでも構わない。
「買った」
俺は袋から金貨を取り出して、店主に渡した。
「まいどあり」
俺は指輪を、そのままアリアに差し出した。
「え……? 私に、ですか?」
アリアは驚いたように目を丸くした。
「ああ。アリアにぴったりだと思ってな」
【翠玉の誓約】は、将来的に特殊スキルを身につける。
スキルの消費MPが減る。
錬金術師のアリアにこそふさわしいアイテムだ。
「……あ、ありがとうございます」
アリアは,恐る恐る指輪を受け取った。
「つけてみたらどうだ?」
俺の言葉を受け、アリアは指輪をはめてみる。
サイズはぴったりだった。
「……綺麗」
アリアは、うっとりとした表情で指輪を見つめた。
「……ロキさん、これ、本当に私にくれるんですか?」
アリアは少し不安そうな表情で、俺に尋ねてきた。
「ああ。もちろんだ」
「だって、指輪って、普通……」
アリアは言葉を濁した。
その頬は、ますます赤くなっている。
「どうした?」
「……ロキさんって、私のこと、どう思っているんですか?」
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