005 【命の雫】
俺たちはブラッドバットとロックトータスを狩りつづけた。
アリアの特殊防御と、ミズタマの防御を、さらに高めるためだ。
大量に雑魚モンスターを狩りつづける。
そうしているうちに随分と時間が経ってしまった。
「ロキさん、そろそろ先に進みませんか? このままじゃ、日が暮れちゃいます」
アリアが、心配そうに言った。
「ああ、そうだな……」
ダンジョンに入ってから、十二時間で強制的に退出となる。
残された時間は、あと二時間ほどだった。
ダンジョン全体から言うと、まだ四割くらいしか踏破していない。
一日で初級ダンジョンの全制覇まで進みたいところだった。
難易度INFERNOでは、初級ダンジョンに初挑戦、初クリアしたときに特別なアイテムをゲットできるのだ。
「先を急ぐが……その前に、少しだけ寄り道をする」
「寄り道、ですか?」
「ああ。この先に、小さな泉があるはずだ。そこに行きたい」
俺はゲームの記憶を頼りに、洞窟の奥へと進んでいった。
通常のルートから外れ、細い脇道に入る。
「こんなところに道が……ロキさん、よく知ってますね」
アリアが感心したように言った。
「まあな。……ここだ」
しばらく進むと、視界が開けた。
そこには、小さな泉があった。
月明かりが差し込み、水面がキラキラと輝いている。
「わぁ……綺麗……」
アリアは、息を呑んだ。
その美しさに、見惚れているようだ。
「この泉の水には、特別な力がある」
俺は、泉に近づき、水面に手を浸した。
冷たくて、気持ちがいい。
「この水を汲むんですか?」
アリアは懐から空き瓶を取り出した。
さすが錬金術師、採取用の瓶を持ち歩いているわけだ。
しかし……。
「アリア、すまない。この水は、普通の小瓶には入れられない」
「え? どういうことですか?」
「この水は、【命の雫】と呼ばれている。特別な力を持つ水だ」
俺は、ゲームの知識を元に説明を続けた。
「【命の雫】は、使うと体力を固定値で回復してくれる。ただし、ある特別な器にいれると、【命の雫】は消費されず、その効果が永続となる」
「特別な器……ですか?」
アリアは首をかしげた。
俺は泉の周りを注意深く見回した。
ゲームでは、この辺りに隠されているはずだが……。
「アリア、ちょっと頼みたいことがある」
「はい、なんでしょう?」
「この泉の周りに、何か隠されていないか、調べてほしいんだ」
「わかりました。ええと……」
アリアは杖を構え、目を閉じた。
そして呪文を唱え始めた。
「……万物を構成する四大元素よ、我が求めに応じ、隠されし真実を明らかにせよ」
アリアの持つスキル、隠しアイテムの探知だ。
アリアは直接的な戦闘能力は欠けているが、このような便利な能力を持っている。
杖の先端に淡い光が集まってきた。
光はゆっくりと泉の周りを移動していく。
しばらくすると、光が泉のほとりの何もない場所で止まった。
「ロキさん、ここです! 魔力の反応がありますよ!」
アリアが興奮した様子で言った。
その場所に近づき、地面を調べてみた。
すると、土の中に、何か硬いものが埋まっているのを見つけた。
掘り起こしてみると、それは、小さな木箱だった。
「これだ……!」
俺は箱を開けた。
中には水晶でできた小さな杯が入っていた。
「これが、【命の雫】を入れるための器だ」
俺は杯に泉の水を満たした。
すると、水は淡い光を放ち始めた。
「すごい……」
アリアは目を丸くして、杯を見つめている。
「この【命の雫】は、使ってもなくならない。所持しているだけで、毎ターンHPを回復してくれるんだ」
固定値しか回復しないので、序盤しか使えないアイテムだが……。
しかし、難易度INFERNOでは、これがないと最初の中ボスすら倒せない。
「アリア、君のおかげだ。ありがとう」
「いえ、ロキさんがすごいんですよ。いろんなことをご存知なんですね」
まあ、俺は何十回……いや、何百回と繰り返してきたからな。
ちょっとずるい気もするが、難易度INFERNOを攻略するのであれば、攻略知識なしでは不可能だ。
俺はミズタマに【命の雫】を渡した。
「飲んじゃ駄目だぞ。持っているだけで良いんだ」
「キュキュイ〜」
ミズタマがうなずいた気がした。
溶けているので、なんとなくしかわからないが……。
ひとまず、これで準備は完了だ。
さっさと中ボスとダンジョンボスを倒して、あのアイテムをゲットしないと。
俺たちは、【始まりの洞窟】の奥深くへと進んでいた。
ミズタマはアリアの肩の上で、ぷるぷると体を揺らしている。
「ロキさん、この先に何があるんですか?」
「この洞窟の中ボスだ。まあ、大した相手じゃない。今の俺たちなら、問題なく倒せる」
俺は、そう言ってアリアを安心させようとした。
しばらく進むと、洞窟が急に広くなり、大きな空間に出た。
そこは円形の広場になっている。
中央には巨大な岩がそびえ立っていた。
「ここが……」
アリアが息を呑んだ。
その視線の先には、岩の上に一匹の魔物がいた。
全身が硬い鱗で覆われた、巨大なトカゲ――ロックリザードだ。
それが、【始まりの洞窟】の中ボスだった。
「……グルルル」
ロックリザードは低い唸り声を上げながら、俺たちを睨みつけた。
その目は、鋭く、敵意に満ちている。
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