002 ミズタマとの出会いとステータス
街の門をくぐり、俺たちは【始まりの草原】と呼ばれる場所に出た。
ここから少し歩いたところに、初級ダンジョン【始まりの洞窟】の入り口がある。
「ロキさん、初級ダンジョンは初めてですか?」
隣を歩くアリアが、少し不安そうな声で尋ねてきた。
「ああ、初めてだ」
嘘ではない。この世界では初めてだ。
ゲームでは何百回と来ているけどな……。
「【始まりの洞窟】は、このあたりでは一番簡単なダンジョンらしいです。でも、油断は禁物ですよ」
アリアは、そう言って俺の顔を覗き込んだ。
本当に油断は禁物だった。
難易度INFERNOだと主人公が雑魚モンスターから一撃もらったら致命傷だ。
あと少しで【始まりの洞窟】へ到着する……というときだった。
「アリア、少し寄り道してもいいか?」
「え? どこにですか?」
俺はある場所を指差した。
そこは、鬱蒼とした木々に囲まれた、小さな湿原だった。
「あそこに何かあるんですか?」
「さてな……」
アリアは不思議そうな顔をしている。
俺は湿原へと足を踏み入れた。
後ろからアリアがついてくる。
足元がぬかるんでいて、歩きにくい。
しばらく進むと、視界が開けた。
そこには、小さな水たまりがあり、そのほとりに一匹のスライムが倒れていた。
体は青白く、所々が欠けている。
明らかに弱っているようだ。
「あれは……? スライム?」
アリアが言った。
このスライムは、ゲーム内では【傷ついたスライム】と呼ばれる特殊個体だ。
通常のスライムは【体当たり】しか覚えていない。
だが、この個体は特殊な技を複数覚えている。
「テイマーの勘ってやつかな。こいつが助けを求めている気がしてな」
「ロキさんって、お優しいんですね」
「アリア、こいつに治癒の魔術を使えるか?」
「はい。お任せください」
アリアは目をつむった。
「……大地の精霊、清らかなる流れよ。その慈悲深き御手にて、この傷つきし者に癒やしを」
アリアは杖を構え、静かに呪文を詠唱し始めた。
その声は、どこまでも澄んでいて、聞いているだけで心が落ち着く。
杖の先端に、淡い緑色の光が集まっていく。
光は徐々に強さを増し、やがて、スライムを包み込んだ。
すると、スライムの体が、ゆっくりと再生していくのが見えた。
欠けていた部分が修復され、青白い体色が透き通るような水色に戻っていく。
「……キュイ!」
スライムは嬉しそうに一声鳴くと、アリアにすり寄った。
完全に回復したようだ。
「よかった……」
アリアは胸をなでおろしていた。
その表情は、達成感に満ち溢れている。
「ありがとう、アリア。助かった」
「どういたしまして。……ところで、このスライム、どうするんですか?」
「もちろん、仲間にする」
俺はスライムに手を差し出した。
スライムは少しの間、俺の手をじっと見つめていた。
やがて、意を決したように、俺の手に飛び乗ってきた。
最弱のモンスター、スライム。
だが、こいつは特別なスライムだ。
俺の攻略知識と組み合わせれば、必ず役に立つ。
「ロキさん。この子に名前をつけてあげませんか?」
アリアが、スライムを指差しながら言った。
「名前か。そうだな……ミズタマだ」
「ミズタマちゃん。なんだか、可愛い名前ですね!」
ミズタマは嬉しそうにぷるぷると震えていた。
さて、改めてステータスを確認しておくか。
俺は『ステータスオープン』と呟いた。
自分、アリア、ミズタマのステータスを表示させた。
まずはアリア。
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名前:アリア
職業:錬金術師
レベル:1
HP:18/18
MP:15/15
攻撃:1
防御:3
特攻:15
特防:58
速度:7
スキル:ヒール、物質検知
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アリアのステータスは、完全に後衛向けだ。
ちょっと物理攻撃を食らったら終わり。
ただ、特殊防御が異常に固い。そこだけが取り柄だった。
次はミズタマだな。
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名前:ミズタマ
種族:スライム
レベル:1
HP:10/10
MP:5/5
攻撃:1
防御:55
特攻:1
特防:1
速度:1
スキル:体当たり、毒液、とろける
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……よし。
狙い通り、『毒液』と『とろける』を覚えている。
ステータスとしては防御が高いのだけが取り柄だ。
だが、それがINFERNO攻略では重要になってくる。
……最後に、一応、俺のステータス。
---
名前:ロキ
職業:テイマー
レベル:1
HP:1/1
MP:1/1
攻撃:1
防御:1
特攻:1
特防:1
速度:1
---
……終わってるとしか言いようがないステータスだ。
そして、このステータスは、これから先、レベルが上がっても一切成長しない。
それが、INFERNOのテイマーの呪いだった。
「行きましょう、ロキ! ミズタマも!」
アリアの明るい声に背中を押され、俺たちは【始まりの洞窟】へと足を踏み入れた。
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