010 君は、結婚しているのかね?
「……ロキさんって、私のこと、どう思っているんですか?」
アリアは上目遣いで俺を見つめてきた。
その瞳は潤んでいる。
期待と不安が入り混じった複雑な感情が浮かんでいる。
どう思っていると言われても、困る。
「……正直な気持ちを教えてください」
アリアは、さらに一歩踏み込んできた。
その声は少し震えている。
「……アリアのことは」
俺は思いついたことを言った。
「可愛いと思ってる」
正直な気持ちだった。
もともと、ゲームのヒロインで一番可愛かった。
それだけではない。
一緒に過ごしてみて、アリアのことを本当に可愛いと感じていた。
アリアは目を見開いた。
その頬が、一気に赤く染まる。
「私も、ロキさんのこと……」
アリアが何かを言いかけたときだった。
「キュイ〜!」
ミズタマが、俺たちの間に割り込んできた。
人間の姿になり、何かを訴えるように鳴いている。
「……ミズタマ、どうした?」
俺が尋ねると、ミズタマは近くの露店を指で示した。
そこには、色とりどりの果物や、串焼き肉、パンなどが並べられている。
「……もしかして、お腹が空いたのか?」
「キュイ!」
ミズタマは力強く頷いた。
その目は食べ物にくぎ付けになっている。
「……仕方ないな」
俺は苦笑いを浮かべ、ミズタマを連れて露店へと向かった。
アリアは少し名残惜しそうな表情で、俺たちの後姿を見つめていた。
「どれがいい? 好きなものを選べ」
俺は、ミズタマにそう言った。
ミズタマは、きょろきょろと辺りを見回し、迷った末に大きな串焼き肉を選んだ。
「……お前、そんなに大きいの、本当に食べられるのか?」
「キュイ!」
ミズタマは自信満々に頷いた。
俺は串焼き肉を買い、ミズタマに渡した。
ミズタマは嬉しそうに肉にかぶりつく。
その食べっぷりは、見ているこちらが気持ちよくなるほどだ。
「……さて、そろそろ宿に戻るか」
俺はアリアに声をかけた。
「あ、はい……。そうですね、戻りましょう」
俺たちは宿屋へと移動した。
それぞれの時間を過ごすことになった。
ミズタマは俺と一緒の部屋だ。
お腹いっぱいになったのか、満足そうにベッドの上で丸くなっている。
俺は窓辺に立ち、夕暮れに染まる街並みを眺めていた。
やっと一息つけた。
異世界ファンタジーの世界だ。
もっと、魔法とか、必殺技とか使えたら良かったんだけどな。
なんて、望み過ぎか……。
しばらく部屋でのんびりすごしていると、ノックの音が聞こえてきた。
「ロキ様、お迎えに上がりました」
執事らしき男性の声が、扉の向こうから聞こえてくる。
「ああ、今行く」
俺はアリアとミズタマに声をかけ、部屋を出た。
宿屋の前には、豪華な装飾が施された馬車が待機している。
俺たちは執事に促されるまま、馬車に乗り込んだ。
馬車の中は、広く、快適だった。
ふかふかの座席に腰を下ろし、窓の外を眺める。
「楽しみですね」
アリアが、ぽつりと呟いた。
「少し緊張してるかな……」
「そうなんですか? ロキさんって、いつも落ち着いているから、緊張とかしないものかと思ってました」
ゲームの攻略知識はあるが、テーブルマナーとかないからな……。
「きっと美味しいご飯が出ますよ〜」
アリアはまったく緊張していないようだった。
羨ましい限りだ。
馬車は、ゆっくりと夜の街を走り抜けていく。
やがて、ひときわ大きな屋敷の前で止まった。
リンドブルム商会の屋敷だろう。
俺たちは屋敷のなかへと案内された。
「ロキ殿! よく来てくれた!」
ギルバートが姿を現した。
「この度は、娘のセシリーを救ってくれて、本当にありがとう」
ギルバートは改めて俺たちに礼を述べた。
「当然のことをしたまでです」
「そう謙遜なさるな。君のような優秀な冒険者が、この街に来てくれたことを、私は心から嬉しく思っている」
ギルバートは俺の肩をポンと叩き、広間の中央へと促した。
そこには、ひときわ大きなテーブルが用意されており、豪華な料理が並べられている。
「さあ、遠慮なく召し上がってくれ。今日は、君たちのために腕利きの料理人を用意したのだ」
俺たちは、ギルバートに勧められるまま、席に着いた。
「わーい」
アリアが能天気に食事をむさぼっていた。
……気楽でいいなぁ。
俺は少しずつ料理を食べた。
美味しい。
ミズタマの分も用意されており、スライムの姿のまま吸収していた。
食事の間、ギルバートは俺たちに様々な話を聞かせてくれた。
リンドブルム商会の歴史、この街の成り立ち、そして、今後の冒険者としての活動について。
俺は興味がなかったので、すべての話を聞き流していた。
「それで、ロキ殿」
ギルバートは一通り話し終えると、真剣な眼差しで俺を見つめた。
「君は、結婚しているのかね?」
突然の質問に、俺は一瞬、言葉を失った。
「……いえ、していません」
「そうか……」
ギルバートは何かを考え込むように、顎に手を当てた。
「実は、ロキ殿に、ぜひとも我がリンドブルム商会の婿養子になっていただきたいと思っておるのだ」
「……は?」
婿養子? 俺が?
「我が娘、セシリーと結婚していただけないだろうか」
ギルバートは隣に座るセシリーに視線を向けた。
セシリーは顔を真っ赤にして俯いている。
「お父様! 何を言っているのですか!」
セシリーが甲高い声で父親を叱った。
「セシリー、お前もロキ殿のことは嫌いではないだろう? それに、リンドブルム商会にとっても、ロキ殿のような優秀な人材は喉から手が出るほど欲しい」
「そういう問題ではありません! ロキさんに失礼です!」
セシリーは、なおも父親に食ってかかる。
その様子は、まるで、親に反抗する娘のようだ。
隣から視線を感じた。
アリアだ。俺のことを、じとっとした目で睨んでいる。
「すみませんが、結婚するつもりはありません」
俺は、そう宣言した。
「……それは失礼したな。ロキ殿」
ギルバートは微笑んだ。
「少々気が早すぎたようだ。しかし、ロキ殿には、ぜひとも我が商会に協力していただきたい。これは、偽りのない気持ちだ」
彼は俺の目を真っ直ぐに見て言った。
「さて、本題だが……実は、ロキ殿に頼みがあるのだ」
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