第十八話
「お嬢様、お時間です」
「・・・ええ。」
アカデミーの休日の今日は、ロマーノたちには内緒で悪霊の世界に行くことにした。
悪霊の王へ謁見の申請をして、許可をされたのが一昨日だったため、今日行くことになった。
「お嬢様・・・お気をつけて」
「攻撃は効かないから大丈夫よ。」
「・・・ご無事をお祈り申し上げます」
「行ってくるわ」
悪霊の世界の入口をかつてのように召喚すると、強い澱んだ風が吹き出し、一歩前に進もうとする足が止まりかける。
(でも、この問題を解決しないと進まない。)
心を鬼にして強ばる足を動かし、中に入る・・・
「ふう・・・。」
何とか入口を閉じたあと、瘴気が漂う王城へ入ると、案内をする、と従者がやってきた。
「フィオナ様でしょうか?」
「ええ。」
「・・・こちらへどうぞ」
しばらく歩いていると、重厚な扉を構えた部屋の前に来た。
「王様がお待ちです」
「案内ありがとう」
重厚な扉が開けられ、ただでさえ薄暗かった廊下より暗く重い空気が漂う空間が広がる。
「・・・来たか」
「お初お目にかかります。オルガナ帝国のフィオナ・オリィ・シュディアと申します。謁見を許可して頂き、ありがとうございます」
「こちらは挨拶しなくてもわかるだろうから、本題に入る」
「・・・はい。」
(私が王のことを知っているからって挨拶を省くだなんて・・・。)
基本的な社交界のルールは、悪霊の世界でも同じ。
(どれだけ私を下に見ているのやら。)
「あいつを返してもらえるかい?」
「・・・彼と、皇帝陛下の意思に従います」
「時間が無駄だ。せっかく謁見を許可したというのに、分からないだと?」
「ええ。公爵令嬢に決定権などないことは、陛下の方がよくお分かりなのでは?」
「・・・はっ!・・・捕らえろ」
返答が気に障ったのか、私を捕まえようとする。
私の腕を掴もうとした一人の兵士の手は、神聖力によって常に貼られている結界で弾かれる。
「・・・言い忘れていましたね。私は聖女なので、攻撃は通じないのですよ。」
「貴様が聖女だったとは!不運な・・・!」
「ところで、『貴様』は、敬っている人に使っていた代名詞なんです。敵の私を敬ってくださるなんて、女神様も喜ばれますね。・・・前も誰かに言った気がしますが。」
「・・・帰れ」
「かしこまりました。・・・またお会いできることを楽しみにしていますね」
「ふんっ」
いつかあなたと決着をつけるわ、と宣戦布告して退出する。
王城の外へ出てきて、人間界の入口を召喚しようとすると、武器を持った悪霊が私を囲んだ。
「外交問題になるから、気絶ぐらいで留めておかないと・・・」
「・・・総長!不審者です!!」
「なに、侵入者なんて俺が・・・って?!」
「・・・なんであんたが?」
「王様に力を貰ったからな。きっと今頃大騒ぎしているだろう」
捕まったはずの、クローディア皇太子・・・という名の元王太子が悪霊の集団の”総長”として悪霊の世界に逃亡してきたようだ。
「人間やめたんだね」
「ちがう!俺は”敵”を倒して王様の右腕になって、人間として英雄になるんだ!」
「”敵”ねぇ・・・。その”敵”って誰?」
「さあ・・・。王様は秘密主義なんだ」
「信用されてないだけじゃなくて?あんたの”敵”に情報を教えるんだもの、秘密にするよね」
「そ、そんなことない!フィオナなんて、俺様の手にかかれば一発で・・・」
「おっと。何回も言うけど、私に攻撃は通じないわよ、王太子さん。」
「っ・・・!・・・王様っ!!」
王太子が叫ぶと、悪霊の王が召喚される。
「・・・お前まだ居たのか」
「帰ろうとしたらこの人たちがいたので足止めされました。・・・もしかして、決着をつけたかったのですか?気づけずごめんなさい。」
「そういう訳ではない!・・・クローディア、この人は客人だから、危害を加えないように。」
「・・・はい、王様」
(ふう、やっと帰れそうね・・・)
今度こそ帰ろう、と人間界の入口を召喚し、悪霊の世界を後にした・・・
「えっ・・・?!」
「あ、フィオナ」