第十二話
「フィオナ、大丈夫か?」
「お父様・・・。だめです」
「ははっ、そんなに緊張するなんて。うちの娘は世界一可愛い」
いや、緊張してる訳じゃなくて!!
どうしてこんなに令息の視線がすごいの!
「緊張している訳ではなくて・・・。令息の視線がすごいなと思いまして。」
「ああ、いいじゃないか。・・・気に入った令息はいるか?」
「私より頭が良くて爵位が上なら考えてもいいですね」
「・・・ああ、そうか。フィオナにはあの人だけだものな。そうかそうか。」
「・・・はい。」
父が令息の視線を一掃してくれると思ったけど、期待してはいけなかったわね。
娘ラブだから箱入り娘的に守ってくれると思ってたんだけど。
ああ、視線が不快でならない。
「ベラティア公爵家のご入場です」
目の前の扉が開き、絢爛な大広間が視界いっぱいに広がる。
この体では初めてだから少し緊張する。
それに、まだデビュタントする年齢じゃないし、アカデミーみたいに年上しかいない。
「フィオナ、大丈夫か?手が震えている」
「あ・・・。」
無意識のうちに手が震えていたようだ。
・・・そういえば、社交界でいい思い出なんてなかったな。
愛人と夫にバカにされるし、他の貴族の噂話の餌になるし。
「昔を思い出して怖かったみたいです」
「昔のことなんて忘れて。ここに心強い家族がいるだろう?」
「・・・はい。お父様がいれば心強いです」
「そうだ。困ったら言ってくれ。皇族の首をとる以外は時間がかかっても全てやってやるから」
「あはは・・・。」
父の過剰な愛情表現に引きつつ、こんな父・・・味方がいて嬉しいと思ったフィオナであった。
私たちが入場した後すぐに皇族が入場し、広場の中央へ呼ばれる。
「フィオナ・シュディア。オルガナ帝国の名のもとで、聖女の称号とオリィの名を授ける」
「ありがたき光栄でございます、皇帝陛下。聖女の名のもと、全力を尽くしてまいります。」
会場が拍手で沸き立つ。
・・・こんな感覚なんだ、みんなから歓迎されるって。
父のところに戻ろうと目だけで探していると、皇太子・・・ロマーノが近づいてきて、片手を出した。
「フィオナ嬢、おめでとう」
「ありがとうございます、皇太子殿下。」
ロマーノと握手をすると、ロマーノの手がとても温かいことに気づいた。
・・・大丈夫だって包み込んでくれている感じ。
「フィオナ、おいで」
「・・・父に呼ばれているので失礼致しますね」
「・・・ああ。」
「お父様、ナイスタイミングです」
「ああ。感謝してね」
「はい!ありがとうございます!」
「・・・はあ、可愛すぎる。なんでうちの娘はこんなに可愛いんだ・・・。」
「そんなことないですよ」
父と他愛ない会話をしていると、大広間に音楽が流れ始める。
「では、我がベラティア公爵家の女神、一曲お相手頂けますか?」
「・・・はい」
夜会・・・という名の聖女お披露目会はつつがなく終わり、アカデミーに通う毎日が本格的に始まった。
危惧していた学年度末テストも実技が多めだから、そこまで負担は大きくないことが分かった。
そして、今日は・・・
「フィオナ、本当に行くの・・・?」