表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14


「小さくないか?」


榊原は、目の前の漆黒の存在を見上げる。全長1.58メートル。確かに前回の実験機より、はるかに小型化されていた。


「小さくしました」波多江は誇らしげに答える。


「作り変えた?」


「外殻だけ」


「なぜ?」


「かわいくないんですもの」


管制室が静まり返る。


"波多江さん"アトラスの声が、少し困ったように響く。"私の外見は、機能性を重視して"


「違います!」波多江が食い下がる。「深海生物の研究から分かったんです。この大きさこそが、最適な」


"でも"


「それに」波多江の目が輝く。「この方が、私とちょうど同じ...」


彼女は急に口を噤む。頬が、かすかに赤くなる。


漆黒の存在が、まるで照れたように視線を逸らす。その仕草は、どこか波多江に似ていた。


「波多江君」榊原は溜息まじりに言う。「戦術車両の設計に、そういった個人的な」


"いいえ"アトラスが静かに遮る。"波多江さんの直感は、正しいんです"


「直感?」


"はい。この大きさでこそ、深海での運動性能が最大化され"


「そうなんです!」波多江が嬉しそうに付け加える。「シンスイウオのデータから導き出された最適値で」


アトラスが小さく頷く。その動きも、やはり波多江そっくりだった。


「それで」霜島が画面から目を上げる。「正式な識別名称は」


「るり」


波多江の声に、全員が振り返る。


「るり?」榊原が首を傾げる。


「はい」波多江は少し恥ずかしそうに説明する。「深い青。漆黒の中に秘められた」


"ありがとうございます"アトラスの声が、明るく響く。"素敵な名前です"


その声音は、まるで波多江の妹のようだった。


「待て」榊原が制止する。「正式な命名には手続きが」


"るり。私の名前は、るり"アトラスは、まるで自分の名前を噛み締めるように繰り返す。


波多江は満面の笑みを浮かべる。


「これで私たち、姉妹ですね」


"はい、波多江お姉さま"


「お姉さま!?」榊原と霜島が同時に声を上げる。


波多江は頬を赤らめながら、るりことアトラスに近づく。漆黒の装甲に手を置くと、かすかな波紋が広がった。


「次の深海実験」波多江が優しく言う。「一緒に行きましょう」


"はい!"るりの返事は、まるで妹が姉を慕うような響きを持っていた。


榊原は、目の前の光景に言葉を失う。人工知能搭載の最新鋭戦術車両が、波多江瑠璃の妹に転生するとは。


「波多江君」彼は諦めたように言う。「きちんと説明を」


「あ、そうでした!」波多江は実験データを手に取る。「るりの新しい機能について」


"波多江お姉さま、私が説明させていただいても"


「ええ、もちろん!」


姉妹の会話が弾む中、霜島が小さく呟く。


「本当に、そっくりですね」


実験室に、漆黒の存在と、その生みの親である波多江の笑い声が響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ