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2.奇跡を喰らう者

イツキは敵の無力化を確認し、張りつめていたあらゆる力を抜いた。

指先の闇が煙のように立ち消えていく。右手がチリチリする感覚ももう無い。


(あのチリチリ、『急所特効』とか言ってたな。ゲームかよ)


イツキにとっては『捕食者』についても『奇跡』についてもまだ知らないことだらけだが、戦闘に関しては初戦よりは上手く立ち回れた実感があった。


「なぁ、俺たち2戦目にしちゃぁ、かなりうまくやったよな」

とイツキが言うと、闇から唐突にフタバが現れた。素早く近付いたという意味ではなく、それこそ瞬間移動したかのようにパッと出現した。

イツキは今まさにフタバが結界を解いたのだと現象を頭では理解したが、脊髄反射で身体がビクついた。常人が脊髄反射をコントロールできるわけがない。


「ご苦労イツキ。その光が消える前に喰らいなさい」

フタバの愛想のない口調に苦笑しつつ、イツキは『赤』を拾う。


「げーこいつ、気持ちわっる。まぁ、やってみるしかないか」

そうフタバの方を向いて話しかけたが、表情は闇に溶けて見えなかった。

手入れのなされていないその公園は街灯もまばらで、ほとんどの場所は闇に包まれていた。夜間に仕掛けるのはもう止めておこうとイツキは思う。


「今回の戦闘はイツキが捕食者を喰らった時にどうなるかの確認を実施するために行った」

そう筋道立てた応答がフタバから返ってきたので、いよいよイツキは決行の決意を固める。

「キモイなー、ホント抵抗しかないけど、じゃあ……喰うぞ。フタバ、俺に変化がないかよく見ててくれ」

イツキは前歯に力が集まる様子をイメージしながら、

「『穿孔(せんこう)』」

とつぶやく。

前歯が闇を(まと)い……それを使って鈍く光る『赤』をかじった。

前回と同じで嚙みちぎったはずなのに、何の味も匂いもしなかった。口の中には何も残らなかった。


……イツキには前回『捕食者』を喰った時のような能力の閃きを感じ取ることはできなかった。

「なぁフタバ、何か変わったか?俺」

と身体の変化の有無を確認しながら問いかけるも、

「外見の変調は無い」

とあっさりと返された。

イツキは暗い中「よく見ててくれ」と頼む自分も、「無い」と言い切るフタバもどうかしてると心の中で断じた。普通に考えたらこんな暗い環境下で微細な変化が起こっても見えるわけないだろうよ、と。


「イツキ、自覚できる変化はないのか?」

と逆にフタバが訊き返す。

「俺はそんなにバカそうに見えるか?自覚があったら訊いてないっつーの」

と言いつつフタバに向き直ると……先とは違い、表情が見えるようになっていることに気付く。

2人の距離は変わってない。視覚に意識を集中させるまでもなく、暗闇の中での視野も広がっている。


「あー……、さっきは暗くて見えなかったフタバの顔が、コレ喰ったら見えるようになった……気がする。暗闇に目が慣れただけかも知れんけど」

イツキは暗闇に目が慣れる程度のことを奇跡と称するのはいささか大げさに思った。


「いや、イツキは『暗視(あんし)の奇跡』を得たと思われる。私も得ている『奇跡』だ」

おいおいマジかよ……みみっちい奇跡もあるもんだなと、イツキは心の中で悪態をつく。


「てことはさっきのアレが『暗視』持ちだったってことか。本当に捕食者を喰ったら能力を奪えるのか、俺は?」

「前例は記憶にないが、そう言って差し支えないだろう」

硬い口調とは裏腹に、フタバはイツキにニコリと微笑みかけていた。


「今後の戦いに、多少希望が見えた」

とフタバは小さく飛び、ガッツポーズをしている。

口調と表情や動作とのギャップに心奪われたりは絶対しないからなとイツキは自らを戒める。


(俺が喰った『奇跡』はこれで『瞬間移動』と『暗視』の2つになった)


イツキは「『暗視』停止」とつぶやいた。

見える範囲が急激に狭くなる。

(あーマジで『奇跡』だこれ……夜目が利くのはまぁ便利っちゃぁ便利か……)


イツキはいよいよ妙なことに巻き込まれたモンだとため息をつく。

『赤』の残骸はいつの間にかすっかり消え去っていた。


エピソード8以降はちまちま更新する予定です。長い目でお付き合いいただけると幸いです。

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