1.『奇跡』の戦い
イツキとフタバが組んで2回目の捕食者との戦いは、夜のさびれた公園で決行された。
「イツキ、敵は近い」
フタバは自身の持つレーダーのような能力でアバウトに敵との距離を計った結果をイツキに伝えた。
「そうか……俺は影も形も捕捉できてない」
人目に付かないようにと夜を選んで2人から仕掛けた戦いであった。
陽のある内に人気のない場所でやるべきだったかもと、イツキは早くも後悔しだした。
「敵が来る。*****の方角」
「『翻訳』が機能していない!言い方を変えてくれ!」
イツキはフタバの聞き取れない発音に対し言い換えを要求する。
「北西」
今度は単語は聞き取れた。
「北西ってどっちだよ⁉」
今宵イツキは方角を気に留めながら公園を歩いておらず、次回からコンパスが必要だなと舌を打った。
「戦闘開始。対象イツキ」
フタバは未だイツキが敵の方向を把握できていないと判断はしたものの、それを伝え直すよりも優先順位が高いと判断した行動に移った。
「『被膜の奇跡』発動」
フタバの掌に淡く光る球体が顕現する。
球体はイツキに向かって飛んでいき、イツキの身体を一瞬で覆い、消えた。
薄いアンダーウェアのような個体に包まれた感覚がイツキに伝わる。
「サンキュな!」
『被膜の奇跡』。イツキはそれをバリアのようなものだと捉えている。
敵の攻撃をある程度肩代わりしてもらえる、と。
理屈については見当もつかないが、そういうものだと受け入れるしかない。
だが……
「戦闘開始と言われても俺には敵の姿は見えないぞ!」
視認できていない敵に対し、イツキは困惑する。
「イツキ、頭部を狙われてる」
「くっ、前後左右どこからかだけ、くれ!」
「上」
フタバの声と同時に空気を搔き分けるような音が上方向から聞こえたが、イツキはそちらに向き直る時間は無いと判断した。
「『瞬間移動』」
発声と共に発動、その瞬間イツキの身体全体が後方に10センチ程度ワープした。
もしくは自覚できないほどの高速移動なのかも知れないとイツキは勘ぐっているが、実際はともかく、頭を狙いすました突撃をギリギリでかわす。
そのまま一瞬前までイツキが立っていた地点の頭部の高さを凝視すると、闇夜を薙ぐソフトボールサイズの物体が視線を縦断し、折り返して空に戻った。
「目玉ひとつ、デカくて赤く光ってるのが見えた!『そこ』でいいか⁉」
イツキは『赤』を見失わないように視覚に集中を偏らせつつフタバに尋ねた。
「多分、そうだ。目が敵の『奇跡の心臓』」
イツキにとって初めて聞くワードが入っていたが、ニュアンスを受理する。
「弱点ってことだろ⁉次仕掛けて来た時に穿つ!」
イツキはそう言うと、右手の人差し指・中指の2本に力が集まるイメージを作りはじめた。
近くに見えた建物の壁に背を着け、敵の後方からの接近を選択肢から消す。
『赤』が上空で大きく輪を描くような軌跡を視界に留めつつも、
「フタバ、上もしくは左右から急襲してきたら、言ってくれ!」
と、フタバのサポートも予備として要請すると、
「わかった」
と、イツキの近くのどこかに展開された『結界の奇跡』からそう聞こえた。
フタバがどこにいるのかはイツキにもわからない。
知性のある相手ならかく乱を狙って遠近・上下・左右に位置取りを目まぐるしく変えたり、イレギュラーな動きも使ってくるだろうとイツキは考えたが、先ほど目にした物体は衝動だけで動いている、そんな気がした。
(……『赤』は直線的に俺を狙う)
そう山を張って前方180度と上方向からの襲撃に備えた。
直後、イツキはぼんやりと光る『赤』が上方向にじりじりと移るのを認め、
「ハッ、ワンパターンかよ」
とつぶやいた。
『赤』は静止状態から急激に加速を始める。
「イツキ、上」
フタバは方向を伝えると、すぐに次の手を打った。
「対象イツキ、『急所特効の奇跡』」
イツキは右手のチリチリとした感覚をその『奇跡』が効果が伝わった証と捉え、上方向を睨みつけた。
「バッセンの80km/hより遅いんじゃないの」
とスピードを確認しつつ向き直り『赤』と対峙した。
「バットで打つより楽勝!」
イツキの2本指が闇を纏い、
「食らえっ!『穿孔』!!」
と闇を『赤』に突き刺すと、「カーーーン」と甲高い音が鳴り響いた。
ソフトボールサイズの『赤』は瞬時に活動を止め、ボトッと地面に落ち、赤い発光は徐々に弱弱しくなっていった。
エピソード8以降はちまちま更新する予定です。長い目でお付き合いいただけると幸いです。