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労働とは生きる事。

ユリアンのローブを羽織らされたメルの怒りは最高潮に達していたが、それに対しマサトとユリアンはグロッキーな顔で謝り続けメアを説得するしかなかった。



「メル、本当にごめんなさい…でも猫のままだと街中をドラゴンが徘徊している様なものなの」


「僕が本気で死ぬと思ったのは今回が初めてだよ…」


 マサトとユリアンが出した答えはメルを一時的に人間に変え、力の使い方を学んでもらおうと考えた。そもそも気まぐれな猫のままだと引っ掻くだけで死人が出たり建物を破壊してしまうだろうし、意図せず人類の敵となる可能性が高い。人間の姿になればメルを捕捉しやすいし人間の常識と動物の認識のズレをメルが体感しやすいと思ったからだ。



「マサトッ!いつになったら私を元の姿に戻してくれんの?」


「ご飯を沢山あげるから、少しの間だけ我慢してくれないかな?もちろんメルの好きな物をいくらでも食べて良いから」


「ふんッ、あまりに長いと暴れるからな」



__



 いつもの酒場には大皿が山積みになって今尚、料理が運ばれてくる席があった。


「ウマッ!いくらでも食えるし、味が濃いッ!」


 猫の頃とは比較にならない程の鮮やかな味覚と、胃袋の容量。寝て食べる事しか楽しみがなかったメルに食の大革命が起きていた。


「メル…もうお腹いっぱいだろ?」


「うるさいマサトッ!!私はもっと食えるぞぉぉぉぉぉ」



 ユリアンのお下がりの服を着たメルのお腹は妊婦の様に膨れ上がりお腹だけみっともなく露出していた。が、正義の鉄拳がメルの脳天を襲う。

 


「良い加減にしなッ!このバカ猫ッ!吐くまで食うんじゃないよッ!」



 一応メルが人間になった事情をマサトは女将さんに話したが、特に気にした様子は無かった。



「ぉ?…へッ!効かないねぇババア!そんなへなちょこパンチッ!」


「生意気だねぇこのバカ猫は、いっちょ私が仕込んでやるか」


「女将さん?」


「見てなボウズ、動物はハッキリと上下関係を分らせないと言う事を聞かないからね」


「殴って来たのはそっちだからなぁ!ババッ…」



 女将の手刀がスパンッ!と心地の良い音が店内に響いた。メルは口の端からよだれが垂れ身震いをする。



「ニャァァァァァァッ!!クソいてぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


 頭の痛みを逃がそうと喚きながら両手で頭を高速で擦るメルを尻目に、マサトは女将さんの手を凝視した。


(嘘だろッ!?Lv90のメルがあんなに痛がるなんて…どんなユニークスキルだ?)


「ボウズ、日暮れまで私のところでコイツの面倒を見てやる、メルと私が名づけしたからには酒場の評判に関わってくるからな」


「見た目は子供ですが心は本当にただの猫ですよ?Lvも90ですし何かあってからでは…」


「うちの飯をいつも美味そうに食ってんだ、バカ猫だが人前に出せるくらいには躾けてやるよ」


「うーん…分かりました、よろしくお願いします」


 

 (魔界に行く準備も必要だからメルに付きっきりとはいかない、とりあえず人を襲うような子ではないし、力の加減も最低限は教えたから何かあったら駆けつけよう)




__




「野菜炒めとビールっす〜」



 メルは怠そうにお客に料理を提供してから昨日のやりとりを思い出した。



__



「女、私ニンゲンのままでいいわ」


「え?」


 寝る寸前、突然の発言にベッドの隣にいるユリアンは目を見開いた。


「ご飯は美味いし沢山食える、寝床もふかふかのクッションで隙間風も無い、まさに私の夢が叶った訳だな!はっはっはっはッ!」


「メル…人間のままなのは別に良いけど働かないと生きていけないよ?」


「なんだよ働くって」



 ユリアンは人間社会、労働に関して話すがメルはしかめっ面になり首を傾げた。



「普通にムリ。養ってユリアン」


「初めて名前で呼ばれたんだけどッ!?」



 メルはスッと隣のベッドに潜り込むと甘える猫の様にユリアンの腕の中に頭を擦り付けた。



「良い子にするからさぁ…毎日3食とおやつとジュースと寝床だけでいいからさぁ…」


「早速ダメ人間!?というか、私達は魔界って所で魔物と戦わないといけないけどついて来るの?」


「戦うとかムリ」


「じゃあ働いてお給料で生活するか、猫に戻って以前の暮らしをするかだね」


 一度上げた生活水準を元に戻すのは人間ですら困難である。ましてや泥の水を啜り、餌に在り付けない日はネズミを食べるメル。人間の料理の味を覚えた動物にとって人から猫に戻る事は苦痛でしかなかった。



 そして現在に至る。



「しゃっせ〜」


「ちゃんと、いらっしゃいませと言いなッ!」


「いらっしゃいませ♡」



 ちゃんと出来たご褒美に女将からクッキーを貰うメルの姿は、猫の頃から変わっていなかった。

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