肉をよこしな人間
私は野良ネコである。
酒場で媚びへつらい冒険者から食べ物を貰って生きてきた。私を家猫にしようとする人間は居たがお断りである、家猫の飯は不味いと相場が決まっているので冒険者の足元でニャアニャア鳴いて肉を貰い、夜は馬小屋の藁に包まって寝る。
「ニャ〜」
『生きるのって楽勝〜』
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数年酒場に通っていると食べ物を分けてくれる人間は分かるようになった。まずは人間の視界に入り、体や尻尾を動かして反応を伺う。この時に無反応だったり眉間に皺を寄せる人間はダメだ、近寄ると蹴られる危険がある為すぐに撤退する。これさえ気をつければ人間はご飯をくれる、ちなみに私の媚びテクがあれば人間のメスから7割飯にありつける為、ヒトメスはちょろい。
夕方、ぼちぼちお腹が空いてきたため酒場に入り辺りを見渡すと、気の弱そうな黒髪の青年が食事をしていた。
(カモ発見、今日も余裕〜)
青年の足に体を擦り、甘えた声で催促する。
「にゃーにゃーにゃ〜」
『その旨そうな肉をよこせッ!』
青年は私の顔を覗き込むと訝しんだ表情で首を傾げた。
「猫?飲食店に動物が入って来ていいのかなぁ」
他の席の片付けをしていた酒場の大柄な奥さんが青年の声を拾い大きな声で返事をした。
「その白猫は悪さしないから放っておいていいよッ、店の中で粗末するような奴は猫や人間だろうと追い出してるからねッ」
「はぁ」
青年は肉を小分けにして白猫の前に差し出すとパクリと食い付いて食べ始めた。
「ふごッ…ふごッ…ニャ」
(私の好きな脂身の多い所ッ!おまえ分かってるねぇ〜)
「まだ食べる?」
「ニャッ!」
それから黒髪の青年はこの酒場に通うようになり、だんだんと身に付ける装備が豪華になていった。が、女が1人青年と一緒に行動する様になってから白猫は青年に甘える様になった。
「あ!メルおいで!」
「ニャ〜」
メルと呼ばれた私はサッと黒髪の青年、マサトの膝の上に乗り肉が小分けになるのを待つ。
『おいマサト、もっと脂身の所よこせ、私を抱かせてやってるが安くはないからな』
「ねぇマサト君、メルってすごく口が悪いかも…」
黒いローブを身に纏い茶髪を1つに大きく編み込んだ、魔法使いのユリアンは呑気に欠伸している白猫をジッと見つめる。
「ニャニャー」
「発情おんな?私がマサト君と…?いやいや違うよ!」
「ユリアンはメルの言っている事が分かるのか!?」
食い気味なマサトにユリアンは火照った顔を下に向けた。
「うん…いつか役に立つと思って動物と意思疎通できる魔法を覚えたんだけど…」
「あー、犬は忠誠心があるけど猫は飼い主より偉いと思っているって聞いた事あるな」
「にゃにゃにゃーにゃーにゃ」
『私が先にマサトを見つけたんだから、アンタは黙って私が食い終わるのを見てな』
「うん、あの…私もお肉あげるから…少し撫でていい?」
『ん?肉くれるならいいよ』
ユリアンはメルを撫でくりまわし顔面に猫パンチを喰らった。
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難易度SSSランククエスト【赤燐竜】の討伐を終えたマサトとユリアンはギルドに報告に向かう。
「15歳の若き新人PTがたった1年でSSSランクに昇格!!」
「しかも2人ともLv99のカンスト!?どんなバケモンなんだッ!?」
新人冒険者2人が難易度SSSのドラゴンの討伐に成功しギルド内は騒然となっていた。
【マサト・ヒラサカ】Lv99
経験値増加Ⅲ
経験値分配Ⅲ
経験値貯蓄Ⅲ
危機回避Ⅴ
自動回復Ⅱ
魔物特攻Ⅰ
悪魔特攻Ⅰ
飛龍特攻Ⅰ
運気向上Ⅰ
劣化防止Ⅰ
高速移動Ⅰ
練度向上Ⅰ
不屈精神Ⅰ
対魔法壁Ⅰ
対物理壁Ⅰ
獣従奴隷Ⅰ ……
鑑定眼Ⅰ
交渉術Ⅰ
敵対心Ⅰ
強心臓Ⅰ
「一気にユ…ユニークスキルが10を超えています…」
カウンターの受付嬢はあまりに突出したそのステータスに言葉を失う。ドラゴンを討伐した際にマサトのLvが一気に上がった為、スキルツリーが爆発した。
そしてその弊害も。
獣従奴隷
【メル】Lv90
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マサトとユリアンは人気の少ない公園で白猫のメルにジャーキーを齧らせていた。
「まさか僕がメルをペットの様に可愛いと思っていたら本当にビーストテイマーとしてメルを服従させてしまうなんて」
「マサト君…流石にLv90の猫をそのまま放っておいたら、いつか大変な事になると思う…」
経験値貯蓄と経験値分配、そして潜在的にメルを気に入っており、解放されたスキルでPTとみなされたメルにカンスト余剰分の経験値が入りLv90になってしまった。
S級冒険者でもLv50、今回倒したドラゴンですらLv80であり、一般的にLvの差が10を離れると戦力的に真っ向からでは勝てないとされている。
「メルは何て言っている?」
「【しらん】って言っているね…あとジャーキーより柔らかい肉を寄越せって…」
固いジャーキーに飽きたメルは毛繕いを始めていたが、マサトは頭を抱えて座り込んだ。
「メルは旅に着いて来てくれるかな?こうなったら魔界に一緒に行くしか…」
ユリアンが同じ事をメルに説明するがユリアンは首を横に振った。
「【自由気ままに生きる、てか急に束縛とか無理なんですけど】らしいです」
何処かに行こうとするメルを2人で慌てて止め、今度はドラゴンの霜降り肉で時間を稼ぐ。
「1つ良い案が浮かんだけど、メルには悪いことに…」
「メルには申し訳ないけどこれしか方法がないか…」
ドラゴンの肉に夢中になっているメルにユリアンが両手をかざすと、青く光る魔法陣が形成された。
(私のLvが99になった瞬間に発現したユニークスキル『創造魔法』でメルを人間に変える!)
公園が青い光に包まれると肉を口いっぱいに頬張る白髪の少女が裸で目をパチパチとさせ自分の身体を凝視した。
「な、な、な、なんじゃこりゃッッーーーー!!」
すっぽんぽんで公園を走り回るメルは勢いそのまま、マサトにドロップキックをお見舞いし、遥か上空へと消え去っていった。
「マ!?マサトォォォォォッ!?」
「私に何をしたぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「ゲッフッ!!」
ユリアンはメアからヘッドロックを掛けられ顔を皺くちゃにしている。
「発情糞女ッ!!私に変な魔法を掛けただろッ!!早く解けッ!!」
「ブフッ…ちぬ…ギブ…ぎぶぎぶ…」
ユリアンの意識が遠のく中、メアの腕を必死にタップするが、力は緩まるどころか増していく。
「だから魔法を解けってッ!!なんで私が人間になってんのッ!?」
「………。」
「あ、…おーい」
ユリアンは女として見せてはいけない程の酷い顔を晒しながら、気絶してしまった。




