7 新たな生活
イブニール公爵から「解呪のためには一緒の屋敷に住んでもらったほうがいいと考えているのですがいかがでしょうか」と相談があり、父へ確認することとなった。
仮面の呪いについても隠さず話したおかげか、同居の許可は思いのほかあっさりとることができた。
愛し愛される関係までいけなかったとしても、お互いに愛し合おうと努力する関係は父にとって良いものに見えたらしい。
「ただし婚約者としての節度は絶対に守るように」
とのこと。公爵様へ直接手紙をしたためていたようなので、わたしからはなにも言う必要はないだろう。
その後、婚約書類の手続きも終え、衣服などを中心に荷造りをして転居の準備はすぐに整った。あくまで婚約期間中の同居なので、使用人は連れていかない。
「マクベル嬢、おかえりなさい。慌ただしいスケジュールにもかかわらず快く受け入れてくださってありがとうございました」
公爵家に着くと、イブニール公爵自らが迎え入れてくださった。
「お世話になるのは今日からですよ」
目を点にして、とっさにそんなことを言ってしまった可愛くないわたし。おかえりなさいの言葉に驚いたとはいえ返す言葉を間違えた。
「驚かせてしまい申し訳ありません。同居の承諾をいただいてから今日までとても待ち遠しく感じていたため、口を衝いて出てしまいました」
イブニール公爵の表情は変わらず読めないけれど、楽しみにしてくださっていた気持ちは本物のようだ。優しい声色が耳に響いて、なんとも面映ゆい。
「心待ちにしていただいたようでありがとうございます……お役に立てるように精一杯がんばらせていただきます」
私も楽しみにしておりました、とは答えられなかった。恥ずかしすぎてとても言葉にできない。薄く朱が差した頬に気づかれないよう、そっと顔を逸らす。
「心を尽くすのはこちらのほうです。マクベル嬢が快適に過ごせるよう努めることはもちろん、心を寄せていただくための努力は惜しみません」
視界に入ってきた大きな手のひらが、エスコートのために差し出されたものだと気づくまで少し時間がかかった。
「恐縮です……」
そろりと手を重ねると、ふふと笑った気配がした。
(なにがあっても動じない訓練をしよう……)
頬は先程よりも熱が増している。けれどイブニール公爵はしばらく振り返らなかったため、赤らんだ頬を見られることはなかった。